出版社内容情報
石炭,石油が枯渇し,原子力の開発によって大量解雇など世界経済の混乱がつづく1950年代.局地的な紛争が世界戦争へと発展,原爆投下によって大惨事がひきおこされる.そして,戦争と国家から解放された新世界秩序に基づく,人権による世界国家成立への動きがはじまる…1914年の時点で今日の核戦争の危険性を予見した書.
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
のっち♬
131
原子力によって戦争と国家という因果から解放された新世界秩序を追求した思想小説。爆弾手が原子爆弾を持ち上げる光景は今読むとシュールだが、1914年の時点で核による世界滅亡を危惧し、専門家すらインスパイアされるイメージやその後の世界を構想する発想力は凄い。個人主義からも解放される新世界は楽観的だが、ジャーナリズムの鬼才として戦争をなくすためのエコロジカルな思想や世界再建計画は色褪せない。呪縛からの解放は未だ夢のまま。本書から日本国憲法へ至る一連の流れの解説も興味深い、特に書簡が。天皇制の言及は自己主張強過ぎ。2022/08/05
Tetchy
112
本書の概要には思想小説とあるが、これは小説ではなく大説だろう。1914年に発表された作品で原爆が初めて使用された1939年勃発の第2次大戦と、その後原子力を利用した社会も予見した小説として歴史的に評価されている。原爆が発明され、そして世界大戦に発展し、やがてそれら混沌の世界を収めるために世界が一致団結していく姿が描かれるが、21世紀の今、ロシアのウクライナ侵攻でも核兵器の使用の可能性が取り沙汰され、また北朝鮮も最近ミサイル発射実験が喧しい。果たして我々の世界はいつウェルズの呪縛から解放されるのだろうか?2022/06/12
Miyoshi Hirotaka
26
国民国家はフランス革命による発明だが、早々に制御不能となり、ロシア革命で共産主義と、その後ナチズムと結びつき狂暴性を増し、20世紀に爪痕を残した。人間をこの暴力装置から解放したのは原子力。局地紛争が世界戦争へと発展し、1950年代に全面戦争が勃発。原爆投下により大惨事が起きるが、世界は戦争と国家から解放されるという話。しかし、この本の出版年はWWI直前、ヒトラーもまだ無名の一青年だった1913年。原爆は小型化され、複葉機からでも手動で投下可能、わが国は渡洋爆撃で米国本土を攻撃するなど笑えない想定が多い。2017/04/26
ひでお
12
この本は核戦争を予見した本とよく言われますが、本質はそこにあるのではなくて、世界国家による戦争のない世界を築くところにあります。ウェルズはこれを実際に実現しようとして政治家に働きかけていたといいます。その一方で、世界国家を作るためには、核戦争は必然だったという主張について、私たちは納得できるかというと、そうではないのだと思います。そしてまた、現在の世界情勢を顧みると、全世界が一つの理想の元に結束することが、どんなに難しく、実現しがたいものかも、私たちはよく考える必要があると思います。2022/10/27
フロム
11
カタストロフまでは楽しく読めるのだが、世界が平和になった後はとにかく退屈。レトリックは冗長だし、性善説に基づいてキャラが作られてる為膨らみも深みも無い。対立構造がないためただただ物語が垂れ流されると言った状態である。読破するのが非常に辛い。ただ付録の人権宣言とサンキー権利宣言は冷静に考えると凄い。特に自由権の保障等は小説家の発想の領域を遥かに超えている。ホントに宇宙戦争とか書いた人と同じ人物なのかと疑うレベル。日本憲法の叩き台となった思想だが凄い発明だと思う。2020/04/26