出版社内容情報
独得のユーモアとペーソス.その底に光る厳しく冷静な人間観察の眼.内外の文学を通じて比類のないユニークな作風をもって文壇に登場した作者の初期作品を中心とする短篇集.岩窟にまぎれこんだまま成長して出られなくなった「山椒魚」の悲喜劇,都会的哀愁の漂う「鯉」など,九篇を収める. (解説 河上徹太郎)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ちゅんさん
43
この作品集もわかるようなわからないような話が多かったです。でもそれがよくて読み終わったあと心に残って離れません。特に印象的なのが『遥拝隊長』と『休憩時間』。新潮文庫の『山椒魚』とあわせて愛読書になりそうな一冊。2020/03/31
カ
20
一番良かったのは、「槌ツァ」と「九郎治ツァン」は云々。なんかわかる、そしてすごく笑えた、面白かったなぁ。自分のいろんな場面と照らし合わせ今日も職場で思い出し笑い(笑)2014/12/21
...
15
読みやすいけど、難しい。そして言葉のセンスが好きです。山椒魚、何度読んだかわからない。独自のペーソスが冴えている。山椒魚は悲しんだ、と突き放した言い方をしながら、描写は山椒魚からの視点が続き、一体感を持って読むことになる。だから蛙の怒ってないのよね、という台詞でそれは良かったと安堵すると同時に、なんだか本当に、巻き込んでごめんね…としんみりすることになるのだ。散り際の和解の文学ともいえる。でもそれだけじゃなくて罪悪感もある。徹底的に山椒魚の孤独を追体験できる。そもそも山椒魚の寂しさなんてテーマが乙だなぁ。2020/05/24
うとうと
13
娘(13歳)の読書ノートの課題本から。私はあまり名作を読んでこなかった(またはすっかり忘れてる)ので、便乗して読もうかなぁと。9編のうち『山椒魚』しか知らなかった。 『鯉』…早稲田大のプールに放たれた鯉を思う。学生たちが泳いでいるときは底の方にひっそり沈んでいる?どれだけ深いんだ。 『遥拝隊長』…岡崎のような病気でなくても、正気でいられなかった人が戦後はたくさんいたのではと思う。悲しい。絶対にしなくていい体験だ。 『へんろう宿』…こんなふうに運命を素直に受け入れてしまうものか。いまの赤ちゃんポスト?2022/09/16
黒猫
13
井伏さんは10年間も雌伏の時を経て、文壇に登場した。解説にあるようにオチがない。近代文学を好む人は戸惑うかもしれない。しかし、井伏さんはわざとオチがない作品を作っている。結果は読者判断に委ねられる。山椒魚もそう。小さい頃に岩穴に入り気付いたらでっかくなりすぎてが岩穴から出られない。笑うか悲しむか。読者の判断がここから始まる。入口に突進しまくりムダ骨を折り、迷いこんだカエルも同じようにしてやる!あーなんて意地悪な山椒魚さん。(笑)でも近くにそういう人間いるよなぁ。なんて思いながら、山椒魚さんかわいそう。。2016/05/13