出版社内容情報
回教徒軍の若い隊長に思いをよせる女の告白をきき,嫉妬と欲望に狂い悶えるバラモン僧は,呪法の力で女と己れを犬に化身させ,肉欲妄執の世界におぼれこむ.ユニークな設定を通し,人間の愛欲のもつ醜悪さを痛烈にえぐりだした異色作「犬」に,随筆「島守」を併収.著者入朱本に拠り伏字を埋めた. (解説 富岡多恵子)
内容説明
回教徒軍の若い隊長に思いをよせる女の告白をきき、嫉妬と欲望に狂い悶えるバラモン僧は、呪法の力で女と己れを犬に化身させ、肉欲妄執の世界におぼれこむ。ユニークな設定を通し、人間の愛欲のもつ醜悪さを痛烈にえぐり出した異色作「犬」に、随筆「島守」を併収。著者入朱本に拠り伏字を埋めた。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
新地学@児童書病発動中
116
小説の『犬』と随筆の『島守』を収録。『犬』の方は、『銀の匙』の作者が書いたとは思えないようなグロテスクな内容。嫉妬に狂ったバラモンが、自分の罪を告白した若い女性を犬に変身させ、自らも同じ姿になって、愛欲の世界にのめり込む。人間の性の醜さと哀しみを、考えさせる内容だった。『島守』は静謐で美しい作品。『銀の匙』と同じようにきめ細かな文体で、作者の独居生活を描いている。読んでいると、心が洗われるのを感じた。2017/07/28
藤月はな(灯れ松明の火)
98
中勘助はこの作品が実は始めて。しかし、こんな性欲と嫉妬が高く、生理的に受け付けない男は嫌だ!畜生道に落ち、業を重ねていく二人の男女。その姿は愛がなく、生理的嫌悪感と日常への怠惰と恐怖が支配する結婚生活を見ているようで暗澹とさせられる。月足らずで産み落とされた愛おしい男との子を奪われんがために食べ、その味に舌鼓を打つという場面が私にとって最も悍ましかった。そして子への愛情に満たされていた時に婆羅門へ「子が強硬にさせる男女の縁」を説かれて冷水を浴びせられるという場面は、女が男に最も言われたくない言葉だと思う。2018/04/17
NAO
69
【戌年に犬の本】『犬』執着した女の思い人を呪い殺してしまったというのに、どうしてバラモン僧は自分たちを犬に変えなければならなかったのか。中勘助の兄は病気のため早くから廃人同然となり、中勘助は若くして兄夫婦を含めた家族全員を養わなければならなかったという。その兄に兄嫁との仲をたびたび嫉妬された作者の心の闇が、こういったな不気味な話を書かせたのだろう。『島守』は、27歳の時の体験をもとにした話だが、若さが全く感じられない、どこか達観した、枯れたようなものの見方が何とも物哀しく、『犬』とは対照的な作品。2018/04/01
こばまり
60
イヤァァァァァーーーーーーーーッこんな世界‼︎いっそのこと死んでしまいたい。併録の「島守」の病み疲れたような枯れっぷりも青年としてどうかと思う。呪いのような文学。百年経っても依然呪われたまま。2018/11/11
翔亀
47
"他一編"の方、「島守」について。加藤幸子さんは、これに倣って野尻湖畔で"ただ独りの秋"を過ごすようになるが、中勘助は事実、20代で野尻湖の島に籠るのである。「銀の匙」執筆前後のことだ。これはその時の淡々とした日記調の作品。ひとり孤独になって「人間のつまらぬ交渉」の「無益な煩わしさ」を知った、と書く。これは現実逃避だろうか。決して寂しく過ごしていないのだ。「私は木や、鳥や、虫や、魚と友になり、兄弟となって美しい姉妹の神を送り迎えている」。鷺、小鴨、鴛鴦、鶺鴒、啄木鳥と木々(省略)との交感の世界の美しさよ。2015/03/22