出版社内容情報
友だちもなく退屈していたトムは,真夜中に古時計が13も時を打つのを聞き,ヴィクトリア時代の庭園に誘いだされて,ふしぎな少女と友だちになります.歴史と幻想を巧みに織りまぜた傑作ファンタジー.
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
mocha
106
松本侑子さん『イギリス物語紀行』に触発されて何度めかの再読。今回は情景描写の美しさに心惹かれた。ひそやかな夜の庭、まぶしい夏の牧場、凍りついた冬の川・・トムにとってもおばあさんにとっても、古き佳き時代への憧憬が溢れている。子どもが“見えない友達”と遊ぶとき、それはもしかしたらトムのように遠い時間からやって来る子なのかもしれない。2018/09/15
ままこ
88
読メで知って読みたかった作品。探検好きの少年トムが迷い込んだ好奇心を刺激する裏庭。そこで出会った少女ハティと裏庭を遊び場にするが…。大時計の秘密。時間軸が複雑に交差する不思議な現象。瑞々しい感性で情景描写も素晴らしい。構成も変化に飛んでいて読み応えあり。全てが繋がったラストは温かく清々しい。「訳者のことば」も「作者のことば」も良かった。私も、自分の中に子どもをもっているのだ。“時間”とは…を考える大人も十分に楽しめるタイムトラベルファンタジー。カーネギー賞受賞作。2022/06/26
星落秋風五丈原
44
弟のハシカのせいで親戚に預けられ孤独になった少年トムが真夜中に大広間の時計が13打つのを聞いて扉を開けると、そこには大庭園が広がっていて、やはり寂しくて泣いていた5才の女の子ハティと知り合う。そうして毎晩会う度にハティは成長していてついにトムを追い越してしまう。1990/05/08
井月 奎(いづき けい)
39
時間はこの世界におけるただ一つの絶対性で、計り知れない力を持ちますが、それでも人の心の温かさや愛情を消すことは不可能です。トムはふとしたことから夜中に時間を遡り、時間に翻弄されながらも少女ハティと出会い友情を深めます。人との関係と孤独の中に漂うハティはそれでもけなげに自らの存在とトムとの友情を慈しみます。時間は残酷で、二人の別れの際に言葉を交わすことさえ許しませんが、別れと別離の時間ですら二人を引き離すことはできはしません。人は孤独に打ち克つことができると信じさせてくれる強く、恒久的な美を持つ物語です。2016/09/11
れいぽ
31
子供はファンタジーの鍵を持っている。それは例えば時計の鐘が13回なったことで違う世界に行ける瞬間を敏感に感じ取れる勘のようなものだ。美しい庭園の描写や硬質な冬の寒さ。夢と思い出はとけ合う一枚の絵であり、すべての体験は手のひらから零れ落ちていくほど鮮やかになる。名作とも傑作とも言われるのがわかる作品。子供のころに読んでみたかった。私だったら、どんな鍵を手にしたのだろう。 2012/05/09