出版社内容情報
黒人文学・文化研究の第一人者であり、岩波文庫『風と共に去りぬ』の訳者でもある著者による、アメリカ文学・社会論。南北戦争による社会の分断と、激動の戦後を描く壮大な「アメリカン・サーガ」を、主人公スカーレットの背景や、アメリカ黒人史、分断と一体化といった視点から多角的に読み解く。文庫解説に新章一章を加筆。
内容説明
南北戦争による社会の分断と、激動の戦後。価値観が大きく揺らいだ時代に、現実に立ち向かって生きのびていくスカーレット・オハラの強さはどこから来るのか。移民史、黒人史、先住民史や南北戦争史を紐解きながら、作品の今日的な意義を見つめ、通俗小説という理解を打ち破って、壮大なアメリカン・サーガとして読み直す。岩波文庫『風と共に去りぬ』(全6巻)各巻解説に新章を加筆。
目次
第1章 分断するアメリカ・一体化のアメリカ
第2章 スカーレットとそのDNA
第3章 マミー現象とアセクシュアリティ(非性化)
第4章 タラ農園とチェロキーの“涙の道”
第5章 南北戦争とホーム・フロント(銃後)の女たち
第6章 マーガレット・ミッチェルとその時代
第7章 アメリカン・サーガ―永遠の歴史ロマンス『風と共に去りぬ』
著者等紹介
荒このみ[アラコノミ]
アメリカ文学・文化研究。博士(文学)。東京外国語大学名誉教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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yyrn
24
バトラーに出ていかれたスカーレットが最後にタラの農場に帰ろうと思ったのはなぜか?本の字面を追っただけでは掴むことのできない小説の舞台となった南北戦争(1861~65)前後の時代背景や黒人や移民、先住民族に対するアメリカ建国の暗部も(記録に残る様々な事実から)多面的に拾い上げ、映画での波乱万丈な恋愛ドラマという印象に引きずられがちな本作品を見事に修正してくれる本だった。頭を殴られた気分だ。多数の登場人物一人一人の小説上の経歴にも理由があり、主人公の父、南部の大農場主がアイスランド移民のたたき上げだったのも⇒2021/10/02
だまし売りNo
22
米国文学の名作『風と共に去りぬ』の解説書。『風と共に去りぬ』が「ポリティカル・コレクトネス(政治的・社会的に正しいこと)の立場からふさわしくないと、十分に読まないままに批判し、否定している」ことが批判される(239頁)。日本でもブラック企業批判に対し、ブラックは黒人を意味し、人種差別になるとの的外れの批判がある。2021/12/02
Cinejazz
15
マ-ガレット・ミッチェルの『風と共に去りぬ』の翻訳(岩波文庫全6巻)をしたアメリカ文学と文化研究者<荒このみ>女史が、南北戦争による社会の分断、価値観の変貌、移民史、黒人史、先住民史を読み解きながら、通俗小説ならぬ壮大な歴史ロマンス<アメリカン・サーガ(叙事詩)>と位置づけた小説の光と影に迫った硬派の研究書。南部に生まれ育ったミッチェルが作品で描き出したかったのは、南北を分断した歴史的出来事を背景に、南北の格差社会に生きる、ひとりの<アメリカの女>の姿であったと読み解かれている。 2021/10/09
田中峰和
7
未読の者にもわかるように各巻のあらすじから紹介される。わがままなお嬢さんの気まぐれ恋愛小説と蔑む人もいるが、南北戦争当時の奴隷と白人の位置づけや男女差別など社会問題として解説が加えられ勉強になる。トランプ支持者とバイデン政府の分断は最近話題となったが、米国は南北戦争のころから分断されていた。工業や産業の発達した北部と、農業が中心の南部が戦えば、前者が有利なのは誰でもわかる。石油も鉄もない日本がアメリカを攻撃したのと同じほど結果の見えた戦いだった。小説の終わり方に不満のある人々が続編を望んだのは当然だった2021/09/11