内容説明
田舎の獣医キム・ビョンスの裏の顔は、冷徹な殺人犯だった。現在は引退して古典や経典に親しみ詩を書きながら平穏な日々を送る彼には、認知症の兆候が現れ始めている。そんな時、偶然出会った男が連続殺人犯だと直感し、次の狙いが愛娘のウニだと確信したビョンスは、混濁していく記憶力と格闘しながら人生最後の殺人を企てる―。虚と実のあわいをさまよう記憶に翻弄される人間を描いた長編ミステリー小説の傑作。映画原作小説。
著者等紹介
キムヨンハ[キムヨンハ]
金英夏。1968年生まれ。延世大学経営学科修士課程修了。1995年、季刊誌『レビュー』に「鏡についての瞑想」を発表して、作家としての活動を始めた。スコット・フィッツジェラルドの『偉大なるギャツビー』の翻訳書もある。文学トンネ作家賞、黄順元文学賞、東仁文学賞、万海文学賞、現代文学賞、李箱文学賞、金裕貞文学賞など、主要な文学賞をすべて受賞
吉川凪[ヨシカワナギ]
大阪生まれ。新聞社勤務を経て韓国に留学、仁荷大学国文科大学院で韓国近代文学を専攻。文学博士(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
nuit@積読消化中
128
映画が話題になっていたので、先ずは原作からと軽い気持ちで手に取りましたが、これは面白い!そういえば、コリアンミステリは映画ではよく観ていたけれど、小説を読む機会は初めてかもしれない。しかも、主人公がアルツハイマーの老シリアルキラーという設定で、何それ?なところを本書はうまく文学的な要素を絡めつつ、単なる娯楽小説では終わらせない仕上がりになってます。また、この行間に込められた意味、主人公の独白のリズムが素晴らしい。この作家さんの他の作品も読んでみたいです。2018/02/14
ケイ
126
第4回日本翻訳大賞受賞作。もうひとつの受賞作が1250頁もあってどう手をつけていいかわからず、まず短いこちらから。初めてのまともに読んだ韓国文学第一作。残忍でドライ、ブチブチと切れる文章がスパイスとなり、なんだこれは!、面白いじゃないかとページをめくる。しかし、後半は弛れた。次々に殺す殺人者にアルツハイマーをもっとシャープに絡ませて欲しかったな。アン刑事あたりまでは物凄く良かったのに。記憶が切れるということで勘違いはあるだろうと思ったが、それは私の思う方向ではなかった。2018/04/25
keroppi
90
認知症で記憶を失いつつある殺人鬼の独白。まるで詩を読むように繰り返した殺人。記憶は、薄れ、誰を殺し、誰を守ろうとしているのか、分からなくなる。混沌と自分の存在への不安。殺人事件のサスペンスとかと思いきや、これは、人間存在のサスペンスだった。韓国に、このような作家がいたなんて。もっと読んでみたい。また、この小説は映画化もされたらしく、それも観てみたい。2018/10/30
どんぐり
80
短期記憶の障害が著しいアルツハイマー病の元殺人者キム・ビョンス。16歳で父親を殺し、最後の殺しが45歳。それから25年。老いた連続殺人犯にとって、認知症は人生が仕掛けた意地の悪い冗談のようである。殺人者である自分の過去を自覚しながらも、同居する娘のウニから思い出せないことをつきつけられるたびに現在のあやふやな記憶に過去の記憶を重ね合わせる日々。そもそもこの殺人者の記憶を信じていいものなのか、やがて明らかになる驚愕の事実。フィクションは何でもありだから、まあ、よしとしよう。2018/08/03
ゆのん
73
数多くの連続殺人を犯した男の話。全て一人称で語られる内容は読んでいて徐々に不安になっていく。何故なら男はアルツハイマーになり、語られる内容は全く信頼出来ず、男の不安が読んでいる側にも移ってくるのだと思う。全てを忘れてしまった男の罪は許されるのか…。何とも言えない読後感が残る。2702020/12/03