出版社内容情報
トロイアから奪還されたのは本物の彼女ではなかった──旧来の伝説に替えて新奇なヘレネ像を造形してみせる『ヘレネ』。テバイ王家の悲劇がパノラマ風に展開する『フェニキアの女たち』。人間的な理知と神的な狂気の相剋が、当時のギリシア対バルバロイの図式と重なり合う『バッコス教の信女たち』に加え、『オレステス』の4篇を収録。
内容説明
人間的理知と神的狂気の相剋がギリシア人対バルバロイの図式と重なり合う『バッコス教の信女たち』等4篇を収録。
著者等紹介
丹下和彦[タンゲカズヒコ]
大阪市立大学名誉教授。1942年岡山市生まれ。1970年京都大学大学院文学研究科博士課程中退。2005年京都大学博士(文学)。和歌山県立医科大学教授、大阪市立大学教授、関西外国語大学教授を経て2014年退職(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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roughfractus02
4
悲劇は人には不可視の因果関係を運命という形で教える。復讐は因果応報的な行為であり、トロイア戦争の最後を飾るオレステスの復讐劇が代表とされる。作者はこの戦争の原因であるヘレネの奪い合いからオレステスの復讐という神話を題材にしつつ、トロイアでなくエジプトにいるヘレネや復讐後のオレステスという神話にないバージョンを作る(「ヘレネ」「オレステス」)。本来合唱隊である女性たちを劇の中心に置き(「フェニキアの女たち」「バッコス教の信女たち」)、悲劇構造を転換する作者はディオニュソスの祭祀によって彼女らを狂気に変える。2019/07/24
nightowl
1
主体性意識の低い人々が多い作品。時代背景が関係しているらしい。戦争の原因となった悪女ヘレネは偽者でただの幻だった。本物の救出劇「ヘレネ」、何故「アンティゴネ」が遺体埋葬に拘ったか分かる前日譚「フェニキアの女たち」、「エレクトラ」後日譚である「オレステス」、神に逆らうと恐ろしい「バッコス教の信女たち」。少しだけギャグ(本人だけが騙されていることに気付いていない)風の展開があるものの一気に笑えなくなる「バッコス~」が余りに強烈過ぎて他が霞む。2019/09/07