出版社内容情報
複言語・複文化の中で成長した「移動する子ども」たち。彼らが日本語を学んだ経験は、その後の人生やアイデンティティにどのように関わっていったのか。「移動する子ども」と親や支援者の、新しい関係性を追求する。
本書は,幼少期より複数言語環境で成長した子どものことばとアイデンティティをどう捉え,どのように育んでいくのかをテーマにした書である。どの章も,さまざまな実践や調査,経験に基づく論考で,「移動する子ども」をめぐる新しい視点や議論を提示している。
日本の学校等で日本語を学びながら成長している子どもたちへの日本語教育や,日本国外に暮らしながら親の言語である日本語を学ぶ子どもたちへの日本語教育については,これまでも多様な実践研究や議論があった。ただし,それらの研究では,子どもにいかに日本語を習得させるかに焦点があたりがちであった。それに対して本書は,子どもがどのような関係性の中で日本語を学んでいるのか,子ども自身が自分の日本語や日本語学習についてどのように考えているのか,また,日本語を使用した経験や学んだ経験はその人のアイデンティティや人生にどのように関わっていったのかなどについて深く掘り下げようとしている。(「序」より)
序 思想としての「移動する子ども」(川上 郁雄)
第1章
「移動する子ども」学へ向けた視座
―移民の子どもはどのように語られてきたか(川上 郁雄)
▼第1部 「移動する子ども」という記憶▼
第2章
「移動する子ども」が大人になる時
―ライフストーリーの語り直しによるアイデンティティの再構築(谷口 すみ子)
第3章
「日本人らしい日本語」が話せない日本人である僕の物語(鄭 京姫)
第4章
日本とフランスを「移動する子ども」だったことの意味(小間井 麗)
第5章
私の中の「移動する子ども」
―自己エスノグラフィーから見えたもの(李 玲芝)
第6章
「移動する子ども」が特別ではない場所
―オーストラリアで日本語を学ぶ大学生の複言語と自己イメージ(トムソン 木下 千尋)
▼第2部 「移動する子ども」という主体▼
第7章
幼少期より日本で成長した高校生が語る記憶,ことば,自分(太田 裕子)
第8章
「移動する子ども」のことばの発達をめぐる親子の物語(佐伯 なつの)
第9章
複数言語環境にある親子はことばの学びをどのように捉えていたか(本間 祥子)
第10章
JSLの子どもが「なりたい自分」に向かうための日本語支援(唐木澤 みどり)
第11章
日本語を学ぶ子どもが語る「自分らしさ」
―複数のことばに育まれるアイデンティティ(相浦 裕希)
第12章
複数言語と向き合うこと
―子どものことばと主体性の関係(金丸 巧)
▼第3部 「移動する子ども」という意識のゆくえ▼
第13章
カナダと日本で育った私が震災後のFUKUSHIMAから発信する理由(ウィリアム マクマイケル)
第14章
多文化社会の中で育つ,育てる
―ことば,家族,社会,そしてアイデンティティ(陳 天璽)
第15章
「移動する子ども」のことばと心を育むために親ができること(高橋 朋子)
第16章
複言語・複文化の子どもの成長を支える教育実践
―親が創るタイの活動事例から(深澤 伸子)
あとがき 新しいステージにたつ「移動する子ども」(川上 郁雄)
【著者紹介】
川上郁雄(かわかみ・いくお)
早稲田大学大学院日本語教育研究科・教授
1990年大阪大学大学院文学研究科博士課程単位取得。博士(文学)。オーストラリア・クイーンズランド州教育省日本語教育アドバイザー、宮城教育大学教授などを経て、現職。専門は日本語教育、文化人類学。
難民・移民研究、年少者日本語教育をフィールドに、「移動」と「ことば」を視点にした新しい「移動する子ども」学を提唱している。文部科学省「JSLカリキュラム」開発委員、同省「定住外国人の子どもの教育等に関する政策懇談会」委員を務める。
編著書に、『越境する家族:在日ベトナム系住民の生活世界』『「移動する子どもたち」と日本語教育:日本語を母語としない子どもへのことばの教育を考える』『「移動する子どもたち」の考える力とリテラシー:主体性の年少者日本語教育学』『海の向こうの「移動する子どもたち」と日本語教育:動態性の年少者日本語教育学』(ともに明石書店)『日本難民受け入れ 過去・現在・未来』(共著、中央公論事業出版)『私も「移動する子ども」だった:異なる言語の間で育った子どもたちのライフストーリー』『「移動する子どもたち」のことばの教育学』(ともにくろしお出版)『移民の子どもたちの言語教育:オーストラリアの英語学校で学ぶ子どもたち』(オセアニア出版社)など。
内容説明
「移動する子ども」は、親や支援者、まわりの子どもたちとどのような関係性の中でことばを習得したのか。いかに効率的にことばの学習をするかではない。複数言語を学んだ経験が人生の中でくりかえし意味づけられ、「移動する子ども」という記憶として人を形成していく。当事者が語る経験と記憶は、社会を生き抜く力の源泉となる。「移動する子ども」学の新たな視座の提示。
目次
「移動する子ども」学へ向けた視座―移民の子どもはどのように語られてきたか
第1部 「移動する子ども」という記憶(「移動する子ども」が大人になる時―ライフストーリーの語り直しによるアイデンティティの再構築;「日本人らしい日本語」が話せない日本人である僕の物語;日本とフランスを「移動する子ども」だったことの意味 ほか)
第2部 「移動する子ども」という主体(幼少期より日本で成長した高校生が語る記憶、ことば、自分;「移動する子ども」のことばの発達をめぐる親子の物語;複数言語環境にある親子はことばの学びをどのように捉えていたか ほか)
第3部 「移動する子ども」という意識のゆくえ(講演・カナダと日本で育った私が震災後のFUKUSHIMAから発信する理由;講演・多文化社会の中で育つ、育てる―ことば、家族、社会、そしてアイデンティティ;「移動する子ども」のことばと心を育むために親ができること ほか)
著者等紹介
川上郁雄[カワカミイクオ]
早稲田大学大学院日本語教育研究科(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。