感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
trazom
97
私がルプーさんを聴いたのは2回。いずみホールの舞台を暗くして奏されたシューベルトの変ロ長調ソナタは一生忘れない。そのルプーさんが3年前に突然引退。メディアや収録を嫌う当人に代わり、20人の偉大な芸術家たちがルプーさんを語る。「ルプー・タッチ」による独特のピアニズムばかりが注目されるが、作曲や指揮を勉強し、交響曲のトランスクリプションを楽しむこの人の宇宙は、ピアノという楽器を超えていると実感する。偏屈者に見えるが「その作品が私を好きでない」というルプーさんの言葉遣いがいい。演奏家としての謙虚さがそこにある。2022/03/16
やいっち
73
名うての演奏家や聴き手が、その演奏に接した瞬間、魅せられ忘れられなくなってしまうという至高のピアニスト。「伝説のピアニストとなったルプーの素顔を、彼を敬愛する20人の音楽家、関係者などの寄稿やインタビューで描きだす」というもの。演奏するルプーがそこにいる、音は今そこで鳴っている。が、誰も真似のできない世界が脈動する。2022/04/11
どら猫さとっち
6
「千人に一人のリリシズム」と称された世界的ピアニスト、ラドゥ・ルプー。彼はインタビューを好まず、自らのことを語っていなかった。そんな彼について、演奏家やマネージャー、生徒たちが語っていく証言集。音楽についてストイックで厳格だったピアニストは、温かみのあるロマンティシズムを併せ持っていた。そうして聴いてみるシューベルトやベートーヴェンなどは、美しいだけでない、音楽に秘められた真実があるような気がする。2023/04/22
コチ吉
5
シューベルトの即興曲を聴きたいと思った時はルプーのCDを取り上げる。千人に一人のリリシストと呼ばれるルプーだが、その真髄は「音楽がピアノを弾いて、ピアノがピアニストのために音楽を奏でる」という彼自身の言葉に集約されるのかもしれない。彼のもとに集う音楽家仲間との交流はまるでシューベルディアーナではないか。2022/01/26
ろべると
5
ルーマニアのピアニストで先頃引退したラドゥ・ルプーは、シューベルトを得意とするリリシストにして、一切のインタビューを拒否する偏屈者という印象があった。髭もじゃの特異な風貌も怪僧ラスプーチンのようだ。日本でのエージェントとしてルプーと親しく交際した筆者がまとめた、親交のある人たちからのインタビュー(だって本人が語らないから)などをまとめた本書からは、自分に厳しいながらもユーモアに溢れ、また若手の指導にも力を注ぐ、これまで知らなかったルプーの姿が明らかになる。改めて彼の演奏に耳を傾けたくなった。2022/01/17