出版社内容情報
市場万能主義が人間らしいつながりを破壊する一方、社会の亀裂に対し単純な善悪二分論を持ち出し「悪」を隔離・断罪する手法しかとらない。米国をはじめ世界の誤った趨勢に警鐘を鳴らし、真の安全に向け、報復とも矯正・教育とも違う修復的司法の可能性を説く。
内容説明
人間らしい社会へ向けた犯罪学者からの提言。市場原理主義と“犯罪”増加の因果関係を鋭く分析。「報復」や「矯正」という概念を超えた「修復的司法」の可能性を説く。
目次
クリスティの人と業績―ノルウェーにおける修復的司法
第1章 犯罪と行為の間
第2章 地域社会の崩壊と単一文化の成立
第3章 利用される犯罪
第4章 投獄という解決
第5章 消滅する連帯社会
第6章 水平的正義と垂直的正義
第7章 修復的司法
第8章 刑罰の適正規模
著者等紹介
クリスティ,ニルス[クリスティ,ニルス][Christie,Nils]
オスロ大学教授。オスロ大学刑事法研究所所長
平松毅[ヒラマツツヨシ]
1938年生まれ。1943年京都大学大学院法学研究科修了、法学博士。大東文化大学法科大学院教授
寺澤比奈子[テラサワヒナコ]
1953年生まれ。1979年奈良女子大学大学院英語英米文学研究科修了、文学修士。跡見学園女子大学短期大学部兼任講師(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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megumiahuru
3
世界的犯罪学者による修復的司法についての入門書、ということになっているが、実際は「修復的司法」そのものについて語られるというよりは、「犯罪」を切り口に、深い文明批評を行っているのが、本書である。 今、グローバリズムが世界を席巻する中で、社会全体が変質してきている。世界が、<資本>という、単一の価値に飲み込まれようとしている。しかし、全てが単一の価値で塗りつぶされそうになっても、希望はあるものだとクリスティは言う。著者の本当に大きな知性と人間性を感じる一冊。 2012/09/14
さーもんマヨ
3
A- 犯罪は悲しい。だからこそ再犯を減らす為にはどのような刑務所が必要なのか、考えよう。社会復帰支援せず、出所者の就職差別では再犯はむしろ増えるかもしれない。21世紀の司法のあり方。
ころりん
2
ノルウェーの司法学者による修復的司法入門。 2004年の著作なので、ナチズムの後遺症や、9・11テロ、アメリカの犯罪や服役率の高さ、などの現実を踏まえて、とても具体的。 著者はリアリストで、刑罰廃止論者でなくミニマリストを自称。 刑法が道具として必要な現状も踏まえつつ、刑罰的アプローチは福祉・平和から遠くなる。 裁判官も人間で、決して中立ではない。 損得、身内をかばう。 でも、言い換えれば、みんなが互いを「身内・家族」だと思えば、どうだろ? それは修復的司法にならざるを得ないんじゃ? とハッとしています。
KATE TAKAHASHI
1
日本社会ではオウムの地下鉄サリン事件以降国民の体感治安が急激に悪化し、国家も犯罪防止のために厳罰化を進め囚人数を増やし死刑執行数も増やしてきた。犯罪防止のための厳罰化は我々の安全の暮らしには一見必要なものと考えがちだが、ニルスクリスティはむしろ厳罰化により治安悪化が促進されていると主張している。刑務所数増大や犯罪防止のためのシステムに投資するより社会福祉を充実させ囚人をもとの人間に戻すことに投資した方が良いと言う主張は強く共感できた。2016/09/27
オブ犬
1
犯罪者に寛容をもって当たる修復的司法の基本的思想を語った本という感じか。著者の考えはノルウェーにて実行に移されていると聞くので、もうちょっと具体的なところも知りたかった。犯罪者は社会状況によって作られるので絶対悪ではない、という視点は、心に刻みながら見なければいけないな、と思った。ただ著者の理想とする社会は、昔の社会に戻すという感じで現実には不可能で、実現したら別種の格差が生まれるのでは? という気がする。2014/05/30