内容説明
やつらの人夫になってはならぬ、と彼は亡き父の遺命をくり返すかのように言った。おまえの汗でもって彼らをさらに裕福にしてはならぬ、さらに力を持たせてはならぬ。彼らと同じくらい賢くなるまで彼らから知識を吸収せよ。そしてそのおまえの知識を、この果てしのない暗闇からおまえの同胞の手を引いて抜け出させるために、活用するのだ…。流刑地につながれたミンケその教えを受け継ぐ者たちそして彼らの動きを透視する植民地権力の眼第一次世界大戦で揺れ動くオランダ領東インドを舞台にくりひろげられる民族解放の戦いとその結末。ブル島四部作、完結。
著者等紹介
トゥール,プラムディヤ・アナンタ[トゥール,プラムディヤアナンタ][Toer,Pramoedya Ananta]
現代インドネシアが生んだ最高の作家であり、彼の文章は熟成しつつある現代インドネシア語の頂点に立つといわれる。戦争と革命の“45年世代”の象徴的存在として、独立革命から今日まで、激変するインドネシアの真っただ中に身を置きつつ、時代の波に翻弄されながらも逞しく生きる人びとの哀しみと歓びを重厚な筆で綴った
押川典昭[オシカワノリアキ]
1948年宮崎県生まれ(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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syaori
41
最終部は、東インド諸民族の統一の動きを阻止する任務を負ったパンゲマナンの視点で物語が進みます。辛亥革命、米国・日本の台頭や植民地での欧州式教育の成果、第一次大戦、国内国外の様々な要因が絡み合い巻き起こる流れ。それを押しとどめることは欧州社会が誇るヒューマニズムや自由・平等の精神の蹂躙にほかならず、その矛盾との葛藤には胸が痛みました。最後は、人が人の権利を侵すことがあってはならないのだという作者の叫びを聞くようで、ミンケや、そのほかたくさんの登場人物たちの物語を思い、胸が熱くならずにはいられませんでした。2017/12/06
みづはし
5
ついに読了したプラムディヤ・アナンタ・トゥールのブル島四部作の最終章。最終巻ではそれまでとは変わって、東インド政府の警視が語り手となります。ブル島四部作は長編故に本筋とは関係の無い脱線しているような話も多いですが、本作の結末は鳥肌無しには読めません。2015/09/23
Keusuke Sakai
4
インドネシアの巨匠、プラムディヤ・アナンタトゥールのブル島4部作の最終章。この一冊だけで700P超えと、かなりの読み応え。本作は語り手がシリーズの主人公ミンケから体制側のパンゲマナンに代わり、反植民地運動潰しとその葛藤が描かれております。未だに本国では発禁とのことですが、著者自身も長いこと投獄されていたこともあり、そんじょそこらの小説とは書き手の覚悟が違います。2017/02/05
songbird
0
☆☆☆2009/04/28
HARU
0
仕事への葛藤から酒に溺れて孤独。 家族は助けてくれない、離れて行くだけか。 時代を変えようとしたミンケも全てを失い惨めに死に果て、それを封じようとしたパンゲマンも同様。誰も幸せになれないが時代が変わる礎になるというのはこのように厳しいものなのか。 平凡が最も幸せと思ってしまう。2019/07/07