出版社内容情報
仏教がインドで滅びたのはなぜか。厳しい修行による自己救済という理想がひとにぎりの強者のみに到達可能な道だったからである。では、同じ上座仏教がタイで繁栄を続けているのはなぜか。一般大衆がそこに別の魅力を見出し、新しい信仰の体系を作り上げたから二つの宗教が整合性を失わず、ひとつの「タイ仏教」として存在するのはなぜか。タイ研究の碩学が若き日の僧侶生活の体験をもとに、タイ仏教のダイナミズム、その繁栄の謎をきわめてわかりやすく解き明かしてくれます。タイ社会を知るための入門書でもあります。
■上座仏教の構造
神を立てない宗教/苦と解脱の論理/信仰体系の二重性
■出家者の仏教
出家の思想/生活軌範としての戒律/サンガの構造/サンガの性格
■在家者の仏教
サーマネーン・スピンの物語/救済の図式/「タンブン」の諸相/二つの宗教の接合点
■「挑戦」と「応戦」
キリスト教の挑戦/政治権力の挑戦/近代の挑戦
■年表
■上座仏教のおもな年中行事
タイ人の日常生活にまで深く影響を及ぼしている仏教について、分かり易く詳しく書かれた本です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Akihiro Nishio
27
タイ出張中にタイ仏教本を読む。初版は昭和44年と古い本であるが、出家僧侶と、在家信者の仏教世界が著しく乖離しており、それが上座仏教の生存を支えているという指摘は興味深い。しかし、こうした安定したシステムは、近年に整えられたもので、それまで出家僧侶たちも民衆向けにまじないをすることが中心であったという。ラーマ4世が個人的な才覚によって、出家僧侶の規範を整え、現在のようなシステムにしたということには驚いた。王家に対する尊敬が根強いのも理解できる。2017/09/01
みか
8
本書によれば、上座仏教の教理の根底には、自己の救済を可能にするものは自己以外の何者でもないという思想がある。この考えでは、救済を約束する「メシア」的な存在への信仰は否定され、自己を救済するための自己訓練の方法論が提示されている。出家することは、修行のために全精力を投入する態勢を意味している。出家者集団(サンガ)を、自己救済の効率的達成を目標とする機能集団と考えると、とても興味深い。このように見る時、サンガはキリスト教会よりはむしろ労働組合に近い存在と言える。2017/02/11
みか
8
ウィモン・サイニムヌアンの『蛇』と一緒に読みました。日本人にとって「仏教」とは、お葬式、お墓、法事の時にお世話になる先祖供養に関するもの。仏壇に安置するのはブッダ像ではなく位牌であり、「ほとけさま」に手を合わせることは亡くなった両親や祖父母、ご先祖を拝むこと。一方、本書によるとタイ人にとって死者の儀礼はタイ仏教のほんの一部で、寺や僧侶は日常生活の隅々にしみわるもの。自分の住む村に寺があり、そこに起居し、毎朝托鉢のため村内を一軒ごとに巡り歩く僧侶や少年僧の姿。2015/11/07
マサトク
2
初版は昭和44年と、半生記近く前のものだけど、存外に読みやすくわかりやすい。上座部仏教とは、出家者の仏教、在家者の仏教、変わりゆく近現代の仏教、の四章からなる。19世紀のタイの仏教変革が、キリスト教の布教圧力へのカウンターからきた、というのは面白かった。また上座部といっても、儀式化儀礼化している部分も(日本の仏教がそうであるように)少なからずある、というのも面白い発見。人は変わらないということだろうけど。行って見てみたいもんだなあ。2014/10/05
モルデハイ・ヴァヌヌ
1
タイにおける仏教を理解するのに大変有用な概説書。初版が1991年なので、その後の変化について触れられていないのが唯一残念。青木保氏の『タイの僧院にて』もお勧め。2016/03/31