出版社内容情報
現在、精神科を看板とする外来診療所(クリニック)は全国に5000カ所以上存在するといわれている。社会構造の変化、生活習慣の変化、人間関係の変化への不適応から精神的変調をきたす人びとの増加にともない、多くは都市部に乱立するそれらのクリニックへの需要も右肩上がりとなっており、経済的不況と対照をなすような「精神科バブル」の状況を呈している。
そもそも精神科外来クリニックとは、入院治療中心で行われてきた日本の精神医療体制を改変するための足場ともなりうるものであった。創成期の精神科クリニックは、病院で一生を終える精神障害者が地域で生活を営めるようにするため、デイケア・グループホーム・アウトリーチをはじめとする地域との連携を試行錯誤してきた歴史をもつ。しかし昨今の社会激動のなかで精神科を訪れる患者は激増し、心の病いは多様化し拡散しつつある。医師やPSWはその対応に忙殺され、障害者の生活支援という理念もなおざりになりがちである。
本特集ではこのような現状を批判的に検証し、これからの精神科クリニックのあり方について考察する。はじめに、精神医療改革運動のさなかに精神科クリニックを開業した先達へインタビューし、その成果と残された課題に耳を傾けた。そして現在、精神障害者の地域生活支援の拠点となるべく苦心しているクリックについての論文を収録している。
ともすれば世間から離れてそびえ立つ大規模な精神病院とは異なるシステムと活力を併せ持ち、「街角のセーフティネット」と呼ぶべき小さくとも豊かな希望が存在している精神科クリニックの未来を展望する。
巻頭言●街角のセーフティネット――精神障害者の生活支援と精神科クリニック(高木俊介)
インタビュー●私が這ってきた精神医療の道――保護室の小窓から世の中を見る(生村吾郎×[聞き手]岩尾俊一郎+高木俊介)
「診療所運動」のロマンと現実――柏木診療所について(岩田柳一)
精神科診療所からのアウトリーチ――フットワーク・チームワーク・ネットワーク(三家英明)
精神障害者の就労支援――精神科診療所から(田川精二)
座談会●地域をつなぐ、地域をつくる――精神保健福祉士、大いに地域を語る(長崎敏和+濵中利保+辻本直子+李マリジャ+[司会]高木俊介)
精神科診療所と老年期精神疾患――自らの脱施設、脱専門家支配(山崎英樹)
精神科診療所の今後――地域生活支援とメンタルヘルスの間で(大久保圭策)
コラム+連載+書評
視点―18●「障害者自立支援法」――三年後の見直しに向けた動向について「今後の精神保健医療福祉のあり方に関する検討会」の〈中間まとめ〉から、「社会保障審議会・障害者部会」の〈報告書〉まで(朝日俊弘)
連載●引き抜きにくい釘―22 ぼうだま(塚本千秋)
コラム●うつ病から回復するということ(近田真美子)
連載●暴力のリスク・マネージメント―4 暴力の救急場面への対処――ある若手看護師の保護室内での抑制の経験から(岡田 実)
連載●精神医療・病院の改革と病床削減(1)――その政策転換を求めて(富田三樹生)
連載●老いのたわごと―41 日本社会精神医学外史[その3]――渡辺栄市の函館有床精神科診療所(1945-1950)について(息子渡辺博との対話)[1](浜田 晋)
書評●『暴力と攻撃への対処――精神科看護の経験と実践知』岡田実著[すぴか書房刊](安保寛明)
紹介●『自閉症論批判』小澤勲著[高槻自閉症親の会刊](高岡 健)
書評●『精神病の日本近代――憑く心身から病む心身へ』兵頭晶子著[青弓社刊](岩尾俊一郎)
追悼 小澤勲が生きた軌跡(岡江 晃+森 俊夫)
編集後記(岩尾俊一郎)