異形の心的現象―統合失調症と文学の表現世界

  • ただいまウェブストアではご注文を受け付けておりません。
  • サイズ B6判/ページ数 213p/高さ 20cm
  • 商品コード 9784826503846
  • NDC分類 914.6
  • Cコード C0011

出版社内容情報

「精神分裂病」が統合失調症へと病名変更がなされたなかで、新たな治療論の展開が森山公夫によってなされたことは、『統合失調症-精神分裂病を解く』(ちくま新書)に詳しい。

この新たな治療論-統合失調症の全人間学的理解-のもとで、吉本隆明が自身の臨死体験以降の精神の変異をとおして見えてきた文学における「夢幻様体験」の表現世界を語ると同時に、それが人間の精神内容にとってどのような意味をもつことになるのかを、夏目漱石、宮沢賢治、芥川龍之介、島尾敏雄の諸作品をとおして具体的に明らかにする。

吉本隆明が語る、臨死体験以後の心的現象の新領域!

■第1章 文学と統合失調症の心的世界

「精神分裂病」から「統合失調症」へ
『彼岸過迄』の中の「夢幻様」描写の意味
『三四郎』の中の「夢幻様」描写の意味
『彼岸過迄』『三四郎』『草枕』に描かれた漱石の「夢幻様」世界

■第2章 「臨死体験」と原始仏教の世界~死に損なって◎体験とその後

「夢幻様」世界に親和性をもつ漱石の作品
死に損なって~溺れた体験とその後
比喩として「怪しげなこと」へ~中沢新一さんとの対論のなかで考えたこと
「心の考古学」への憧憬~ヘーゲルの歴史認識を超えて
「統合失調症」における「統合」の意味~臨床経験から
「心」あるいは「精神」内容二つの部分の相互関係~『言語にとって美とは何か』と『胎児の世界』の共通性
『統合失調症~精神分裂病を解く』をめぐって

■第3章 もうひとつの視線~四次元的幻視の心的世界

作家と「夢幻様」体験の親和性~漱石、ドストエフスキー、夢野久作
上からのもうひとつの視線の想像力~『銀河鉄道の夜』の描写
四次元的映像空間の想像力ひもうひとつの視線と富士通館の経験から
三次元の感覚世界を四次元的視線で見る想像力~麻原彰晃と芥川龍
親鸞の悟りと精神の病い
「狂気」と文学の可能性
レーニン的唯物論の陥穽と仏教の世界
精神医療における霊性と呪術的世界
「原生的疎外」をめぐって
「精神分裂病」から「統合失調症」へ~実体の変革へ向けて

■解題(森山公夫)
敗戦後の60年
 敗戦体験からの帰還
 60年安保闘争前後
 全共闘運動と吉本思想
 80年代と吉本思想の展開
現在的課題 
 「もう一つの視線」
 「精神とは何か?」

 わたしが初めて吉本さんと対談したのは一九七五年、「精神分裂病」をテーマにした現代思想誌の企画によるものでした。いまだ「七〇年代安保闘争」とも呼ばれた「反戦・反権力」闘争の余韻が強く残り、だがすでに運動全体の退潮傾向はくっきりと現れてきていた時です。わたしは畏敬する吉本さんとの対談にいまだ力足らずという感じを秘め、緊張しながらのぞんだものでした。
        *        *        *   
 そもそもわたしと吉本さんとの出会いは、かつての「六〇年安保」の指導者で元共産主義者同盟書記長でもあった島成郎さんが仲介してくれたものでした。一九五六年に刊行された、武井昭夫・吉本隆明の共著『文学者の戦争責任』を、当時まだ医学生だったわたしに是非読むようにと勧めたのが島さんでした。わたしは一読して、その斬新かつ強靭な思考の魅力にとりつかれ、以後氏の作品を読み継いだものでした。
 ほぼ四半世紀前に書かれた氏のこの戦争責任論を今回読み直して見て、その論点がいまだにみずみずしい生命力を保っていることを発見し、わたしは改めて一驚しました。
                    (森山公夫「解題」より抜粋)

内容説明

吉本隆明が語る、臨死体験以後の心的現象の新領域。

目次

第1章 文学と統合失調症の心的世界(「精神分裂病」から「統合失調症」へ;『彼岸過迄』の中の「夢幻様」描写の意味 ほか)
第2章 「臨死体験」と原始仏教の世界―死に損なって・体験とその後(「夢幻様」世界に親和性をもつ漱石の作品;死に損なって―溺れた体験とその後 ほか)
第3章 もうひとつの視線―四次元的幻視の心的世界(作家と「夢幻様」体験の親和性―漱石、ドストエフスキー、夢野久作;上からのもうひとつの視線の想像力―『銀河鉄道の夜』の描写 ほか)
第4章 「和解」と「諦念」、そして「内省」―新しい関係世界の脱=構築(不安と葛藤の関係を超えて―固有の世界と折り合いを付ける;対立と孤立を超えて―「内省」のむずかしさ ほか)
補章 僕のメンタルヘルス(『心的現象論序説』における「心」と「精神」;「心の危機」と労働の変質 ほか)
解題(森山公夫)

著者等紹介

吉本隆明[ヨシモトタカアキ]
1924年生まれ。東京工業大学卒。詩人、批評家、思想家

森山公夫[モリヤマキミオ]
1934年生まれ。東京大学医学部卒。精神科医。現在、陽和病院院長
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。