内容説明
国家や家庭の葛藤を題材に人間心理の綾を紡ぎ、意外な筋や結末で驚かす悲劇の全集がここに完結。
著者等紹介
丹下和彦[タンゲカズヒコ]
大阪市立大学名誉教授/関西外国語大学名誉教授。1942年岡山市生まれ。1970年京都大学大学院文学研究科博士課程中退。2005年京都大学博士(文学)。和歌山県立医科大学教授、大阪市立大学教授、関西外国語大学教授を経て2014年退職(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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藤月はな(灯れ松明の火)
74
ヨルゴス・ランティモス監督の『聖なる鹿殺し』を観る予習として「アウリスのイピゲネイア」のみ、読了。傲慢さによって女神アルテミスの怒りを買ってしまったアガメノムーン。トロイア戦争に参加するために娘を捧げなければならないと言う苦渋と煩悶するが、自分の過ちは認めない姿に呆れ果てる。プライドばかり、高い男って本当にどうしようもねーな。そして「アガメノムーン」でその妻のクリュタイムネーストラーが夫を殺害したり、『イリアス』でアキレウスがアガメノムーンを蔑む根底にあったものが漸く、分かりました。2018/03/06
roughfractus02
7
後のローマの喜劇作家プラウトゥスは、悲劇の神々が人間中心の喜劇に現れる設定を「悲喜劇」と呼ぶ。それ以前この類の劇は性的意味を持つ自然の精の名を採ってサテュロス劇と呼ばれ、作者が英雄オデュッセウスと下級神で怪物的な扱いをされる一つ目の鍛冶神の対話を中心とした「キュプロクス」は現存する唯一の物だという。が、河の神とムーサの間に生まれ、黄金の産地に育ったレソスの死と、父アガメムノーンのために生贄になるイピゲネイアを人間側から描く作者は、その全ての劇においても悲劇から「悲喜劇」へ転換しようとしていたように思える。2019/07/25
nightowl
1
父親からアキレウスに嫁入りと嘘をつかれた娘。実際は生贄として捧げられるために呼ばれた「アウリスのイピゲネイア」神様が裏で手を引いたため呆気なく殺された男「レソス」怪物から逃げ出そうとするオデュッセウスのドタバタ「キュクロプス」に各作品解説や全作品総論、エウリピデスの書物に伝わる生涯などを載せた一冊。これまでより人物像もぶれがあり作品の質が落ちる。あくまで補遺篇の意味合いが強い。「アウリス〜」は「グリークス」版が如何に工夫されているか分かる程。2019/12/18