内容説明
明治も終りに近い頃、江戸川橋近くの鰻屋で育ちながら、家業を嫌い靴職人になった主人公・伊之吉が、たび重なる浮き沈みに揉まれながら生き抜いて行く―。丹念な心理描写ときめ細かな筆致で、靴職人の半生と関東大震災前の東京を鮮かに描く!太平洋戦争中には“不要不急”の小説として刊行を見送られ、戦後は出版社の倒産によってお蔵入りとなった“幻の長編小説”!野口冨士男・生誕110年を期し、78年の封印を解いてここに刊行!
著者等紹介
野口冨士男[ノグチフジオ]
1911(明治44)年、東京生まれ。慶應大学予科中退後、文化学院文学部に移り、同校卒業。紀伊國屋書店出版部に入社。のち都新聞(現・東京新聞)、河出書房を経て、40年、初の著書『風の系譜』を刊行。44年、海軍に召集されるが、翌年、栄養失調のため横須賀海軍病院に入院。半年後に復員する。48年「文藝時代」を創刊。また「キアラの会」に参加。60年、同会によって創刊された「風景」の初代編集長となる。65年『徳田秋聲傳』にて毎日芸術賞を受賞する。76年『わが荷風』で読売文学賞(随筆紀行部門)、79年『かくてありけり』で読売文学賞(小説部門)、80年「なぎの葉考」で川端康成文学賞、86年『感触的昭和分文壇史』で菊池寛賞を受賞。また82年には日本藝術院賞が授賞された。93年、呼吸不全のため死去(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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hasegawa noboru
12
明治末年から大正期を製靴職人として生きた男「伊之吉」を主人公とした三人称客観小説。昭和十七年大戦中には不急の作品だとして出版不許可になり七十八年を経て今年刊行されたのだという。十五歳での靴屋奉公から始まり、製靴技術の腕を磨きそれを頼りに、店を持ち転居を繰り返しながら経済的浮き沈みを経験し続けて、三十二歳関東大震災被災までの半生を描く。家を借り店を出し靴を作る職人の働き方にしろ、当時の巷の風景とそこに生きた人々の生活の形態などはすでに失って久しいものとなった。なぜか小林秀雄が「無常という事」の中で気取り倒し2021/10/17
ふみえ
5
長かった。表紙と『戦時中、不要不急の小説で刊行できなかった』との帯に惹かれた。少年の成長譚だが、これでもかと言うほど良いところで失敗する。それでも這い上がる逞しさに清々しさも。面白かったが疲れてしまった。2021/08/25