内容説明
“悲劇は“場所”をめぐる物語である。悲劇はこんにち理解される「悲劇」の“概念”を意味していない。悲劇は観衆の“身体”に働き治癒する力をもつ。悲劇は宗教的に“神々と英雄たち”を舞台に受肉化させる。”ギリシア悲劇にそなわる以上の4つのテーゼを明らかにすることで、ほぼ完全に失われてしまったギリシア悲劇をめぐる近代的誤謬から本来の悲劇を救う“不可能な”試み。
目次
序章 ギリシア悲劇は私たちといかなる接点を持つのか?
第1章 場所(借景のある舞台;失われた場所を求めて ほか)
第2章 概念(ジョージ・W・ブッシュによる悲劇性の概念;アリストテレスにおける悲劇性の概念のはじまり ほか)
第3章 身体(ポスト悲劇時代の思想家アリストテレス;カタルシスの謎 ほか)
第4章 神(純粋理性へと還元された悲劇;コロノスのふたつの墓 ほか)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ミムロ犬
3
“悲劇性”なんていう概念は近代の人間が勝手に作り上げただけで、ギリシア悲劇とは対極にある文学というものを経験してしまった我々には実際ギリシア悲劇がどんなものであったかはもはや分かりえない。だが、それでも近づこうとするのなら悲劇性という幻想は捨てて当時の観衆たちに視点を移すべきだ・・・という一般には地味なテーマだが、アリストテレスに発する悲劇をめぐる文献学者たちの論争史は、ギリシア悲劇というものが彼ら西洋人にとって重大なものであるがためにいっそう熱を帯びていてバトルものとしてもめっぽうおもしろい。2020/05/15
うさを
0
ソポクレスの『コロノスのオイディプス』を一応の素材にして、ギリシア悲劇がいかにこれまで考えられてきたようなものではないかを「場所」、「概念」、「身体」、「神」という4つのテーマを巡って議論する。能とのリンクはどうなんだ?と思いつつ、知られている悲劇が悲劇のほんの一部でしかないこと、アリストテレスからフロイトを結ぶカタルシスの思想、悲劇と英雄信仰との関わりなど興味深い話ばかりだった。途中、構造主義人類学の話が出てくるけど、文化人類学、民俗学ともそれなりに近い話で楽しかった。2022/01/23