出版社内容情報
人間・生物・自然を破壊する「持続可能な開発」言説(=知のシステム)の本質を説き明かし、
「開発に対するオルタナティブ」を提起した開発学の現代の古典
あまたの開発本と本書との決定的な違いは現実の捉え方にある。著者エスコバルによれば、「現実」とされる現象は特定の政治的関心によって秩序化された言説・表象である。ある事柄が突然注目を集め関心事になることを「問題化」と呼ぶ。冷戦の最中、第三世界の後進性が問題化(言説化・表象化)され、開発介入の必要性が叫ばれた。だが、当地の人々の現実(暮らし)が以前と比べ大幅に悪化していたわけではなかった。
言説・表象としての開発「問題」を、著者はフーコーの生権力概念を大胆かつ明確に現実世界に投影させ、「開発の民族誌」を編んでいく。本書は南米コロンビアを実験地として、世界銀行調査団という「黒船」がこの国に入って以来(1949年)の、三つの生権力の物語を軸に展開される。
まず、「言説としての経済学」という物語。ここでは、現実の分析から理論を導き出すのではなく、理論によって単純化・カテゴリー化したものを「現実」として見なす「言説製造の仕組み」が語られ、いわゆる農学、栄養学等、第三世界に導入されたあらゆる近代諸科学に共通する本質が明らかにされる。次に、アメリカや世界銀行の援助を受けた農村開発や栄養改善のプログラムが一国の隅々にまで官僚組織制度を張り巡らせながら「開発言説効果」を浸透させていく物語、最後に、新たなターゲットとして農民が生産者、女性が追加労働者、自然が資源として切り取られ、開発に新たな意味づけがなされていく物語を通して、現代世界を今も覆い続ける「開発幻想」「『持続可能な開発』への夢」からの覚醒が呼びかけられる。
開発の時代の幕開けから70余年。9・11、福島、新型コロナを経て、今私たちは「持続可能な開発」言説の下にある規律統治権力の最新バージョンに直面している。「開発のためのオルタナティブ」ではなく「開発に対するオルタナティブ」を提示する本書(1995年初版、2012年増補版)は、現代文明と政治社会の根幹部について熟考を迫る「現代の古典」ともいうべき開発学の必読書であり、コロンビアと同様アメリカの実験国家である日本に住む私たちに、現在進行中の状況を考える至高の分析視角を提供する。(きたの・しゅう 獨協大学外国語学部交流文化学科教授)
内容説明
SDGs(持続可能な開発目標)の言説と実践を惑星地球の視座から批判。開発へのレジスタンス、開発に対するオルタナティブ。「学際知」と「現場の知」からポスト開発論の新たな地平を拓き、来るべきプルーリバース(多元世界)を眺望する開発学の古典。
目次
第1章 序論―開発とモダニティの人類学
第2章 貧困の問題化―三つの世界と開発をめぐる物語
第3章 経済学と開発の空間―成長と資本をめぐる物語
第4章 権力の拡散―食料と飢えをめぐる物語
第5章 権力と可視性―小農民と女性と環境をめぐる物語
第6章 結論―ポスト開発の時代を構想する
第7章 二〇一二年版への追補
著者等紹介
エスコバル,アルトゥーロ[エスコバル,アルトゥーロ] [Escobar,Arturo]
1952年コロンビア共和国マニサレス生まれ。母国のバジェ大学で化学工学を学んだ後、コーネル大学(ニューヨーク州)で食料科学・国際栄養学修士号、カリフォルニア大学バークレー校で開発哲学・政策・プランニングPh.D.取得。スミス・カレッジ助教、准教授、マサチューセッツ大学アーマスト校准教授、教授。ノースカロライナ大学チャペルヒル校人類学教授(Kenan Distinguished Teaching Professor of Anthropology)を経て、2019年より名誉教授
北野収[キタノシュウ]
獨協大学外国語学部交流文化学科教授。専門は国際開発論・国際協力論・食料農業問題。1962年東京都生まれ。コーネル大学で国際農業農村開発学修士号と都市地域計画学Ph.D.取得。農林水産省で農業経済事務官(国家1種)として国際協力・ODA、農村整備・地域活性化、美しい村づくり、農業白書、行政改革会議等を担当。大臣官房調査専門官を最後に退職。日本大学准教授を経て現職(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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