出版社内容情報
リーマンショック(2008)、東日本大震災(2011)、そして中国の対日デモ(2012)と、この5年ほどは日本の経済社会に大きな影響を与える事象が相次いだ。90年代初頭のバブル経済崩壊以降、縮小に身を委ね、「失われた20年」をやり過ごしていた私たちは、成熟した経済社会、人口減少、少子高齢化、さらにグローバル化といった新たな構造条件の下で、「新たな豊かさ」を獲得していくためのあり方を問われている。
この5年前後の「地域」の現場で最も目立つのは、「六次産業化」の取り組みであろう。各地の若くて意欲的な担い手は農業の大規模経営による効率化を進め、他方、女性たちは加工・直売等による付加価値の向上を視野に入れている。また近年、これまで衰退産業とみなされていた水産加工業の領域で新たな取り組みが開始されている。冷凍・冷蔵技術、物流・販売・通信技術といった供給側の技術革新の進展、そして需要側の成熟化・少子高齢化に伴う個食化などの事情が顕著となり、地域の農林水産業において新市場が急速に開けてきたのである。
一方、日本のモノづくり系産業は80年代後半から一気にアジア・中国展開を重ねてきた。従来の繊維・日用品、電気・電子に加え、最近では自動車産業の海外生産も増加している。こうした新たな条件の中で、「国内に残る」道を含め、進むべき方向が次第に鮮明になりつつある。
このような近年の動向をとらえる際の最大のポイントは、「地域」の意味の重大性が高まってきた点にある。成熟化と高齢化に伴い、縮小経済の段階に入った時代においては、人びとが暮らす「地域」を丁寧にみて、地域資源(自然・人的)に深く着目した取り組みを行うことが不可欠となる。「域外から所得をもたらす産業」「雇用の場を提供する産業」、そして「人びとの生活を支える産業」の意味が大きくなるのである。シリーズ7冊目となる本書では、このような視点に立って各地の取り組みをみていく。そこから、多様性に富み、そこに暮らす人びとに「希望」をもたらす地域産業のあり方が浮かび上がるであろう。(せき・みつひろ)
【著者紹介】
大きな構造変化の下で、いかに「新たな豊かさ」を創出するか。地域に分け入り、人びとの「希望」に学ぶフィールドノート第7弾。
内容説明
縮小経済の中で輝きをはなつ農・水・製造業の新境地。「失われた20年」と震災の苦難を力に換えて、人びとは新たな豊かさに向けて歩み始めた。各地の六次産業化、水産加工、モノづくりの取り組みに、「地域」の意味の深まりを読みとる。
目次
1 六次産業化に向かう(富山県礪波市 米作の地富山で果樹専業の直販―転作を機にぶどう専業として歩む「宮崎ぶどう園」;宮崎県延岡市(旧北方町) 山間地で後継者が事業的拡大に向かう―栽培、直売、加工、観光農園化に向かう「田口ファミリー果樹園」
栃木県大田原市 水稲、畜産で大規模展開―加工、レストランにも向かう「前田牧場」 ほか)
2 水産加工業の新たな展開(大分県佐伯市 地場の海藻をベースに事業化を深める―「ひじき」に新たな命を吹き込む「山忠」;鹿児島県垂水市 世界基準で養殖魚の輸出に向かう―養殖ブリの新たな可能性を追求「グローバル・オーシャン・ワークス」;秋田県男鹿市 伝統のしょっつるを復活させる―地域の食文化を守り、世界に注目される「諸井醸造所」 ほか)
3 モノづくり中小企業の今(岡山県浅口市(旧鴨方町) 地場産業から独自領域に向かう―ストローの里の老舗企業の転換「シバセ工業」
島根県雲南市(旧掛合町) 山村に雇用の場を提供―地域みんなで作り上げている工場「協栄金属工業」
富山県小矢部市 中小企業を対象にペットボトルを供給―プラスチック成形の世界で進化を重ねる「横山製作所」 ほか)
著者等紹介
関満博[セキミツヒロ]
1948年富山県小矢部市生まれ。1976年成城大学大学院経済学研究科博士課程単位取得。現在、明星大学経済学部教授。一橋大学名誉教授。博士(経済学)。受賞:1984年第9回中小企業研究奨励賞特賞。1994年第34回エコノミスト賞。1997年第19回サントリー学芸賞。1998年第14回大平正芳記念賞特別賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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