出版社内容情報
日本を含めて世界は現在、金融危機、経済停滞、失業、貧困、格差、環境破壊など多くの困難に直面している。これらの問題の多くは、市場に過度な信頼を置いた新自由主義と、それを加速した経済自由化、グローバル化によって引き起こされたものである。近年では世界各地で、そうした困難を軽減するため、あるいは感情的な反動として、国家の経済への介入が強まっている。
市場が不完全な制度であることは明らかだが、他方で国家の過度の、あるいは誤った介入が、非効率、不公平、モラル喪失を引き起こしうることもまた事実である。したがって現代においては、市場主義、国家主義のいずれをも超える開発モデルが求められていると言える。英国ブレア政権が目指した「第三の道」はその一つであるが、それは基本的には新自由主義であり、新自由主義が引き起こした問題を解決することはなかった。
本書で検討するブラジルの「社会自由主義国家」は、《もう一つの「第三の道」》とも呼ぶべき開発モデルである。それは、イノベーションを通じて経済をグローバルな市場に統合する一方で、教育や社会保障などの社会政策および科学技術政策を国家が担う経済体制である。国家は引き続き社会政策・科学技術政策に要する資金の大半を支出するが、その実施は「社会組織」と呼ばれる非政府・非営利組織に委ねられる。行政に関しては財政規律、効率性、透明性などが重視され、また国民投票、参加型予算など市民の政治参加制度が導入されている。ブラジルでも経済自由化に伴い、市場の役割が強まったが、企業セクターは社会的責任を強く求められている。さらに、第三セクターとして協同組合、労働者自主管理企業などの連帯経済あるいは社会経済の創造と強化が進められている。
「市場か国家か」という従来の二項対立的な議論を超えて、市場・国家・市民社会からなる多元的な経済制度を追求しているブラジルの挑戦は、開発途上国だけでなく、日本を含む先進国の経済政策、制度設計にも多くの示唆を与えると考える。(こいけ・よういち)
内容説明
新自由主義を乗り越える新たな開発モデル。経済発展と社会的包摂・市民の政治参加と行政の効率性。その両立を目指すブラジルの果敢な挑戦に、経済政策・制度設計の思想と方途を学ぶ。
目次
第1章 社会自由主義国家:多元主義的経済社会に向けて
第2章 参加型予算:国家を社会的に統治する
第3章 連帯経済:新しい経済を創る
第4章 CSR:企業を社会的に統治する
第5章 社会的イノベーション:経済発展と社会政策の両立
第6章 労使関係:経済自由化に伴う制度改革
第7章 社会都市:クリチバの都市政策と社会的包摂
著者等紹介
小池洋一[コイケヨウイチ]
1948年埼玉県生まれ。立命館大学経済学部教授。専門は開発研究および地域研究(ラテンアメリカ)。立教大学経済学部卒業。アジア経済研究所研究員、同地域研究第二部長、サンパウロ大学経済研究所客員教授、英国開発研究所(IDS)客員研究員、拓殖大学開発学部教授などを経て現職(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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