出版社内容情報
『赤と黒』『パルムの僧院』の作家、文豪スタンダールの魅力を多面的に描く。芸術、旅、恋愛…文学の豊穣な世界への誘い。
新聞などで古典ブームだと言われている。わたしはそうした書き方に首をひねってしまう。確かに、『源氏物語』の多様な現代語訳が出たり、古典と称される外国文学の新訳が出版されたりして、話題になってはいるが、ブームというほどのものだろうか。仮にそうだとしても、ブームと言うと何かしら底の浅いものを感じる。第一、こうした出版が、古典の新しい読者層を掘り起こしているとはどうしても思えないからだ。大学で教えた経験から見て、若い人たちのあいだでの文学的教養の衰退は容易に修復しがたい状況にまでなっている。わたしが長年読み続けてきたフランスの作家スタンダール(1783-1842)も、学生たちには「それは誰なの」という程度であり、ましてその代表作『赤と黒』(1830)については、一部の研究家や愛好者を除いて、一般の人にも今では特に注目されることがない。スタンダールの名を知る人には、場合によっては、「何で今さら」と思われるかもしれない。しかしこの作家の豊穣な世界は、なかなか汲み尽くせるものではない。これはいわゆる古典作家すべてに通じることであろう。消耗品的な物語の量産と隆盛のなかで、次々とそれらを消費していくより、じっくりと古典に向き合うなら、それが語りかけてくるものは計り知れない。スタンダールは真にそれだけのものがある。スタンダールとかれの作品について、わたしがあれこれと想いをめぐらし、対話し、書いてきたものを集めたのが今回のエッセー集である。論文風の少し硬いもの、閑談風の軟らかいものと、とり混ぜてある。これを手引きとしてこの作家に近づいてくれる人、または読み直しをしてくれる人が出てくれば、著者として大いなる喜びである。(著者 臼田 紘)
内容説明
スタンダールの人と作品を通して文学の魅力を再発見!旅、恋愛、音楽、美術…文学の豊穣な世界への誘い。『赤と黒』『パルムの僧院』…近代小説の開拓者スタンダール。その作品群には人生を豊かにする永遠のテーマが燦めいている。
目次
文学の豊穣な世界―汲み尽くせないスタンダール
スタンダールとは誰か
スタンダールとイタリア
ドイツのスタンダール
スタンダールと愛国心
スタンダールとドクター・ジョンソン
スタンダールの小説における女性像―『赤と黒』と『パルムの僧院』のヒロインたち
スタンダールの小説のトポグラフィー
スタンダールの小説における手紙の機能
『赤と黒』のリアリズムとロマネスク〔ほか〕
著者等紹介
臼田紘[ウスダヒロシ]
1940年、東京に生まれる。早稲田大学文学部仏文科卒業。現在、跡見学園女子大学文学部教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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