内容説明
いじめグループから現金を脅し取られ自殺した中学生の事件から、著者はいじめ自殺の背後に共通する風景があることに気づく。金銭の絡むいじめ自殺は旧軍用地を利用した開発の周辺部に集中していた。寂れた風景のもとで、なぜ中学生たちは金銭欲に取り憑かれ、いじめ自殺事件を引き起こすのか?開発による空間の変容と暴力を照射し、「かわいい」ものがあふれ、死への怖れを失った消費社会を根源から揺さぶる。
目次
第1章 「脱中心化する風景」の生産
第2章 軍隊の痕跡の後に―残された農地、失われた農地
第3章 いじめ自殺
第4章 開発計画と暴力
第5章 「田園」と「都市」
第6章 消費社会と暴力
第7章 死の消滅
著者等紹介
荻野昌弘[オギノマサヒロ]
1957年千葉県生まれ。パリ第7大学大学院社会科学研究科博士課程修了、博士(社会学)。関西学院大学社会学部教授。専攻は文化社会学、歴史社会学、社会学理論(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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Mealla0v0
4
戦後日本の開発の段階は、まず戦後復興期の、軍隊が解体された広大な空間の利用をめぐるものがあり、次いで高度成長期があるが、この時期は旧軍用地の開発が落ち着き周辺に拡大し消費社会が浸潤していく。開発が跛行的に進んだために地域の中心地がない、「脱中心化された風景」が広がる。ここでいじめ自殺が発生する。というのも、その風景のもとでは「社会性が停止された状態」(ホッブズ的自然状態)が現出しているからだ。これは消費社会が生み出した「平等」と関わっている。2022/04/16
1_k
0
帯の煽り文からすると、反戦病患者の団塊左翼ホイホイを想起してしまうが、非常にまともでアカデミックな内容。「脱中心化」がイジメの精神的な遠因になりやすく、脱中心化された地域ができる要因として急速に進み地域間にアンバランスをもたらす開発があり、さらに広大な開発可能な土地であった旧軍駐屯地が浮かび上がる、とロジックがきちんと成り立っている。それを補強する資料の収集もきっちりしており、経過年数の因果関係などある程度数値的な裏付けも出てくる、満足の行く論旨。cf.ニュータウンの「フラットさ」2012/04/08