出版社内容情報
実業世界の「長者」たちは、維新以降の時代において休息に富を築いた者たちである。封建秩序が崩壊した維新以降のしゃかいでは、営利追求や資本の蓄積といた経済的営為に関わる思潮は、劇的に変化した。商売や貨殖に道徳性を認めない封建的な社会通念が名残をとどめるなかで、彼らの多くは新しく事業をおこし、それを積極的に拡大し、また多角化していった。そして、最終的には莫大な富を蓄積して、一部は財閥を形成していった。三井家の当主や三井関連企業の経営者、三菱を創始した岩崎弥太郎・弥之助兄弟、大倉喜八郎、安田善次郎、森村市佐衛門などは、その典型である。彼らは実業という限られた分野のエリート―いわばビジネス・エリート―であるにととそまらず、明治期・大正期を通じて「紳士」や「富豪」といった呼称のもとに新時代の代表人物として注目される存在になっていった。近代日本社会なかで、彼らには独特の存在感があったのである。(「序論」より)
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【関連書籍】
『 大衆モダニズムの夢の跡 』 竹内洋著 (定価2520円 2001)
『 財閥の時代 』 武田晴人著 (定価2940円 1995)
内容説明
社会の眼差し、メディアの表象、富者の言動が絡みあう“場”で語り/語られる「富豪」たち。ビジネス・エリートに留まることを是としない彼らは、威信の根拠たる“ハイカルチャー”を手繰り、「正統」な文化を誇示し「正統」な処世訓や成功哲学を披露する。かくして大いなる“偶像”は築かれていった。「紳士」の群像を介して語りうる社会的・歴史的なリアリティ。
目次
第1部 富裕層への視線(人名録の思想―「紳士」発見の試み;資産家番付の思想―富裕層への眼差しの変容;上流階級イメージの変容―総合雑誌の分析)
第2部 エリート実業家の文化的動向(財界人の叙爵と婚姻戦略;実業家文化の戦略と形式;安田善次郎の文化戦略)
第3部 「道徳的実業家」の偶像化プロセス(「実業界」という表象―経済ジャーナリズムとエリート実業家;理想的実業家像の形成―偶像化のプロセスと『実業之日本』;実業家の言説空間―財閥創始者世代の自伝的テキスト)
著者等紹介
永谷健[ナガタニケン]
1963年生まれ、京都大学文学部卒業。京都大学大学院文学研究科博士課程(社会学専攻)単位取得退学。名古屋工業大学大学院工学研究科准教授。京都大学博士(文学)。専門は文化社会学、歴史社会学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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