内容説明
近代の刺繍は海外への輸出という役割を担ったことで、制作体制や意匠、技術が大きく変化した。西洋の室内を装飾するため、それまでにない形・絵柄・表現力が求められ、商人・職人らにより超絶技巧ともよべる作品の数々が生み出される。国内外の王宮をも飾る日本の近代刺繍が花開いたおよそ五十年間について、現存する作品を網羅的に調査することで、刺繍産業の状況を具体的に描き出し、日欧間でどのような影響を与えあったのかを明らかにする。
目次
第1章 刺繍史の中の近代
第2章 輸出刺繍の諸相
第3章 近代刺繍の担い手―分業が生み出した近代の刺繍
第4章 欧州に残る日本刺繍コレクション
付論 トルコに残る日本の刺繍
第5章 描かれた刺繍
第6章 刺繍作品に見る日欧交流
著者等紹介
松原史[マツバラフミ]
1984年静岡県生。京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程修了、博士(人間・環境学)。北野天満宮北野文化研究所室長。日本学術振興会特別研究員、清水三年坂美術館特別研究員を経て現職。刺繍をはじめとする京都の工芸に魅せられ研究している。現在は2018年に設立された北野天満宮北野文化研究所にて北野天満宮の豊かな歴史・文化・御神宝に関して研究しつつ、京都女子大学・立命館大学等で非常勤講師を勤める(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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しいたけ
74
学術書でした。国交がない頃から不思議とルートがあって海外に輸出されていたことが興味深かったです。その頃から西洋が求める「日本的なもの」に寄せる工夫もあったとのこと。女子に手に職をつけさせるのに刺繍の学校を作ったり、諸々合わせて近代化だったのですね。芸術的なものと似せて作成したつもりの粗悪なものの違いが白黒の写真で見ても明らかでした。2023/01/28
ふう
24
斜め読み。京大で京都の伝統工芸を研究してきた著者の、日本刺繍の大成。昨秋京都高島屋で開催された「刺繍絵画の世界展」で観た作品をはじめとして、写真も多く(白黒が多いのが残念)、明治期に莫大な外貨を稼いでいたことが数字の上からもよくわかる。スイスのザンクトガレンの刺繍学校では輸入されたものを教材として生徒が模倣して作った作品が残されている。国交のなかった時代にオスマン帝国の宮殿を彩った刺繍調度品の豪華さに目を奪われる。口絵で紹介された手打ち刺繍針の後継者問題はどうなったのだろう。職人への聞き書きも面白い。2023/01/12