内容説明
第一部では歴史の流れを概括しながら「出生」(草木の自然な形姿)「花矩」(人為的な意匠)「修行」(挿花を通じての求道)という観点で「花道思想の構造」を整理。第二部では、古くから挿花と密接に結びついていた宇宙像が江戸末期に揺れ動き、それが花道思想にどのような影響を与えたかをみた後、近代の花道家が新たな社会・文化・学術的環境のなかで、花道文化の伝統とどのように向き合ったのかを「風流」と「芸術」という概念に注目して考察する。花道思想の構造と、その近代における変容をみることで、日本の挿花文化の背後にある思想、そして今日の挿花文化の位置に迫る。
目次
第1部 花道思想の構造(出生論;花矩論;修行論)
第2部 近代と花道思想(花道と「宇宙」;花道と「風流」;花道と「芸術」)
著者等紹介
井上治[イノウエオサム]
1976年、大阪府生まれ。京都大学文学部卒業、同大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。現在、京都造形芸術大学准教授。花道研究会「北白川会」主宰(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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owlsoul
5
花道とは、作庭と同じく、限られた空間において自然を表現しようとする営みである。しかし、庭と違って一瓶でそれを完結しようとする花道は極端な抽象化を必要とし、結果として宗教との親和性を高めた。花道の根底には儒学的・易学的な宇宙像があり、それは「自然本来のあるべき姿は人為によって導かれる」というものだ。つまり、宇宙の理を修めた花道家が草花に手を加え、本来のあるべき姿へ導くという思想である。やがて、西洋文化の流入によってそのような宇宙観は否定され、花道は個人的な表現として、つまり芸術として扱われるようになっていく2022/11/26
すずき
3
ほぼ門外漢なのであまり自分はあてにならないが、現在古書でない新本として各流派外の一般に流通している華道の総合誌・研究書というのは結構少ないのでは。茶道などと比べて研究にかなりの遅れを感じる(そもそも各芸道がここまでは個別のものとして扱われるようになったのは近代以降であろうと思うので、華道単体で扱うことにも限界があろうが)。いわゆる習い事になっている芸道を学術的研究の対象にすること自体に難しさがあるのだろう。2018/11/30
ひらっち
0
面白かった。個人的には伝統を保持し続けることが、国民国家における国民の再生産以外の意味を見いだせていなかった。が、この本では伝統と生に関して異なる視点が提示されていた。2018/10/07