内容説明
奴隷として生まれ、独学で読み書きを覚えた過酷な半生を描く！１９世紀前半の２０年前、「人間性」を破壊する奴隷制に抗って生き、ついに逃亡するまでの、ダグラスが「人間として生きた」苦難の道のり。本書は、「奴隷制」の本質を描き出す貴重な記録でもある。１９世紀半ばに書かれながら、今でもアメリカで多くの人々に読み継がれる。「人間として生きる」ことが、洋の東西を問わず、現在でも切実な問題として問われているからであろう。
目次
第１章 奴隷に生まれて
第２章 ロイド大佐のホーム・プランテーション
第３章 ロイド大佐と奴隷たち
第４章 罪に問われぬ殺人
第５章 ロイド大佐のもとを去る―あこがれのボルティモアへ
第６章 新しい主人と港町ボルティモア
第７章 読み書きの習得―自由への手がかり
第８章 遺産の分配―奴隷制への怒り
第９章 「キリスト教徒」マスター・トマス
第１０章 抵抗―奴隷調教師コーヴィとの闘い・仲間との逃亡計画・造船所での闘い
第１１章 逃亡―ニューベッドフォードでの出会い
追補 二つの「キリスト教」
著者等紹介
樋口映美［ヒグチハユミ］
専修大学教授（アメリカ社会史、人類関係史）（本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです）
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感想・レビュー
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スー
22
78今度は男性奴隷の書いた自伝書です。こちらは人がどうやって奴隷になっていくか、奴隷に優しかった白人女性がどう一般的な奴隷の主人に変貌していくかを丹念に書き残しています。本当に恐ろしいのは人を蝕む奴隷制度と奴隷制度を正当化させる南部キリスト教です。神の愛と博愛精神を説いている牧師が奴隷達に鞭を振るう事をなんとも思わない、フレデリックの主人はキリスト教に帰依したとたんに残虐性が増したと記憶している。人がいかに脆く簡単に流されてしまうのかを痛感しました。2019/05/26
ロビン
19
『風と共に去りぬ』での南部黒人奴隷の描写がどうにも気になり、映画『ハリエット』（新しい２０ドル札の顔に選ばれた奴隷解放活動家のハリエット・タブマンを描いた作品）鑑賞と共に一読。著者フレデリック・ダグラスは南部メリーランド州の黒人奴隷だったが、苦労して字を覚え２０歳の時に「地下鉄道」の人々に助けられて逃亡に成功し自由の身となった人物。南アのアパルトヘイトでもそうであったが、形骸化・腐敗した「キリスト教」が奴隷制度を肯定し、信心深い信者や牧師が奴隷を冷酷に鞭打つという事実、信仰利用に罪深さを感じさせられた。2021/06/03
ぱせり
9
奴隷制は、奴隷だけでなく奴隷所有者の人間性までも奪う制度だ。自分の主人は自分以外にいないのだ、いつか必ず自由になる、と決心したのは奴隷だった著者が、読み書きの力を知ったときから。学ぶってどういう事だろう、人間であるってどういう事だろう。苦しみながら、確かめながら、自分のものにしていった著者の言葉を噛みしめる。2021/10/09
夕月
7
非常に知的で冷静な印象を受けた。過酷な生活を強制されていたのに、悲しみや憎しみをぶつけるのではなく、奴隷を使う側が、あるいは奴隷として働かさせれている側が、なぜそうしているのか、何がそうさせているのかがきちんと考えられ、表現されていて、理解しやすかった。奴隷制度は使われる側の人格だけでなく、使う側の人格をも崩壊させるのだ、という視点は、当事者が持つにはかなり客観的であろうとする努力が必要な気がする。こういう事実があったことを忘れずにいたいと思う。2016/02/20
水
2
訳者あとがきの一文が胸に刺さる。「人間性の破壊は奴隷とされた人々たちにとってだけではなく、奴隷制を維持する側に立ち、鞭を振るう白人たちにとっても作用していたという事実が見えてくる。」本書から学べるのは奴隷の悲惨さが際立つが、与えられた役割の中で、人は誰にでも暴力を振るう所有者になり得るという人間の脆い部分を、読者として感じ取った。いかなる時にも人に暴力を振るったり、不幸に貶める加害者としての役回りにはNOと突き返せる人でありたい。2018/07/13
