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内容説明
1953年―内戦に勝利したフランコの独裁体制は強固に続いていた。作家に成長していた著者は、“兄弟殺し”とも言うべき内戦の酸鼻な記憶を、聖書に記されたカインとアベルの物語を踏まえて、本作品に形象化した。
著者等紹介
マトゥテ,アナ・マリア[マトゥテ,アナマリア][Matute,Ana Mar´ia]
1925年、バルセロナの中流家庭に生まれる。カインとアベルの物語に着想を得た小説『アベル家の人々』(1948)で作家としてデビュー。幼少期の思い出や内戦の記憶に支えられた作品を発表し、カフェ・ヒホン賞やプラネタ賞、ナダル賞をはじめ、数々の賞を獲得した。中世ヨーロッパを舞台とした英雄譚『望楼』(1971)を世に送り出す一方、ファンタジーや友情、夢や希望を明るく歌いあげた子供向けの物語も数多く手がけ、83年には『片っぽだけ裸足』で国民児童文学賞を受賞する
大西亮[オオニシマコト]
1969年横浜市生まれ。現在、法政大学国際文化学部准教授。専門はラテンアメリカ現代文学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
長谷川透
14
国内の政情不安、内乱ゆえの混乱、経済的貧窮のために生じる人々の軋轢を、聖書に記されたカインとアベルの物語を下敷きにして描いている。露骨で分かりやすい書き方に、正直に言えば少しがっかりしてしまったのだが、この物語の元になった下敷きの神話性など忘れてしまうほど、切迫した状況が胸を何度も強く打ち心苦しくなる。あまりにも苦しい現実だからこそ聖書の物語の力を借りて、神話に昇華する必要がある。それは緊迫した状況下において救いの手を求める、ささやかだけれど、これ以上何もできないものがとる一つの方法なのかもしれない。2013/11/21
ぱせり
5
読後心に残るのは、フアンのひどい渇きだ。彼は飲みたい水を得られない。彼は水の飲み方を覚える機会さえなかったのだ、と思うとあまりに哀れだった。それを飲んだらますます渇くと知っていても飲まずにいられないものが、水のかわりに目のまえにある。友を騙って。それでも「親友」と呼ばずにいられない、彼の孤独の寒さ暗さ、深さ。2022/02/05
wanted-wombat
4
セルバンテス賞作家というのと、表紙の猫に惹かれて(笑)スペイン語系作家作品というと、どうしてもマジックリアリズム的な幻想性を想起しがちだが、本作はラテンアメリカ作品もう一つの特徴である社会派な作品。短い作品なのですぐに読めるが、非常に中身の詰まった良作。クライマックスのフアンと弟の掛け合いは彼等が語るのと現代人が語るのとでは重みが全然違うだろう。リアルが胸を貫く点においてはスペイン語系作家の右にでるものはないだろう、と再確認。2012/10/31
Mark.jr
3
変な感想ですけど、ここら辺のスペインの作家の作品は、日本の戦後派と通ずる所があるなと思ったり。2022/04/18
中海
2
ラテンアメリカ文学のお手本といった感じの作品。素朴で濃厚で土着。もがきながら生きてる。「最近の世の中、若者、3040代が駄目だ、末期だ」とか耳にすることがあって、正直「ずっとじゃない?」と聞き流していたが。やっぱり50年前と今では生きる重みが違うよね。でかい会社に(派遣で)勤めてる時にボス(いい人)が「最近〇〇さん、痩せておしゃれになったんだけど俺が聞くと問題になるから、もしなんか言ってたらこっそり教えて」とか言われて、しんどいなー現代ってと思った。使わなくていい気を使って疲れている皆。それが文明か?2022/06/11