ハバナへの旅

アレナス，レイナルド【著】〈Ａｒｅｎａｓ，Ｒｅｉｎａｌｄｏ〉/安藤 哲行【訳】

現代企画室（2001/03発売）

• サイズ B6判／ページ数 220p／高さ 20cm
• 商品コード 9784773801002
• NDC分類 963
• Cコード C0097

内容説明

著者が自由を求めて亡命した国＝米国は、すべてが金次第の、魂のない国だった。幼く、若い日々を過ごした故国＝キューバの首都ハバナへの、哀切きわまる幻想旅行。

目次

１　最初の旅―エバ、怒って
２　第二の旅―モナ
３　第三の旅―ハバナへの旅

著者等紹介

アレナス，レイナルド［Ａｒｅｎａｓ，Ｒｅｉｎａｌｄｏ］
（１９４３－９０）キューバ・オリエンテ州、オルギン近くの村に生まれる。革命勝利の前年には独裁者バチスタに抵抗するゲリラ組織に参加。革命後は農業会計士の勉強をし、農場で働く。初期の革命的な熱狂の時代が終わると、次第に画一的な規範がすべての人に求められ、同性愛者に対する迫害も始まって、ホモセクシュアルであるアレナスは居心地が悪くなり、「革命」から距離をとり始める。小説を書き始め、’６５年の「夜明け前のセレスティーノ」は文芸家協会コンクールで入賞するが、刊行されたのは２年後。その後の作品もキューバ内での出版は認められず、原稿が没収されたりもした。反政府的な言動や同性愛者であること理由に逮捕されること数回。’８０年にマリエル港から脱出し、ニューヨークに住む。以後、雑誌を創刊したり、旺盛な執筆活動を繰り広げるが、エイズによる健康状態の悪化と精神的な落ち込みを理由に、ニューヨークの自宅で自殺。邦訳に「めくるめく世界」「夜になるまえに」がある

安藤哲行［アンドウテツユキ］
１９４８年岐阜県生まれ。現在、摂南大学教授。ラテンアメリカ文学専攻。主な訳書に、「夜になるまえに」「天使の恥部」「パタゴニア・エキスプレス」「老いぼれグリンゴ」「メドゥーサの血」「陽かがよう迷宮」などがある
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感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

[長谷川透]

アレナスにとって旅とは、どこでもない場所から己の拠り所を見つけられずにいた主人公が、精神のユートピアを求める苦闘でもある。キューバからの亡命の後にアメリカに行き着いたアレナスであるが、彼は己の魂を生まれ育った故郷に置いてきたのだろう。肉体と魂の再会融合を果たそうとする試みが、全篇を通しメタファーとして伏流している。勿論、彼にとって拠り所の無さは政治思想だけに留まらず、ホモセクシャルであることにも起因している。亡命した夫を待つ妻の手紙から始まる「ハバナへの旅」は著者が抱えるマイノリティの精神の真骨頂である。

2013/02/05

[DEE]

派手な服を着てキューバ中を巡る夫婦の話。ニューヨークで囚われの身となり命を狙われている男の話。戻ることはないと妻子を、そしてキューバを捨てた男が再び戻ってくる話。戻らないという強い意識は戻らなければという無意識を引っ張り出してしまったのだろう。著者はゲイでありHIVに罹患し自殺したそうだ。自由が許されなかったキューバ。閉鎖的なその場所でゲイであることの生きにくさと苦しさが痛いくらい感じられる。

2020/10/01

[スミス市松]

極彩色の装飾を身に纏い女と男がキューバ中を練り歩く「エバ、怒って」、ニューヨークを妖しげな美女と駆け回る獄中狂人の回想「モナ」、そして“ここではないどこか”を求めひたすら移動し続けたアレナスのひとつの答えともいえる表題作「ハバナへの旅」を含む、生前最後に出版された〈三つの旅からなる小説〉。前者二作はアレナスが短編小説においても稀有な才能の持ち主だったことを示しているが、郷愁の思いが爆発する「ハバナへの旅」こそアレナスがアレナスであることの証明であり、この小説の燦然たる輝きはアレナスの生命力それ自体である。

2011/11/02

[takao]

ふむ

2022/09/08

[okadaisuk8]

　キューバは一度ハバナと郊外の町だけ行ったことがあるが、１０年前のその記憶が読むと見事によみがえる。アレナスは超現実的な記述や内容も多いが、その土台には極めてすぐれた写実の力があると実感した。アレナスの文学には、故郷と自分の関わりとは何か、人が自由に生きるにはという問いかけが常にある。カストロ政権への反発をむき出しにしているが、かといって、攻撃対象のカストロが死んでキューバ社会がこれから変わろうとも、アレナスの作品の価値が下がることはないだろう。

2017/01/31