香港・広州 菜遊記―粤(えつ)のくにの胃袋気質

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  • サイズ B6判/ページ数 235p/高さ 20cm
  • 商品コード 9784773627046
  • NDC分類 383.8
  • Cコード C0039

出版社内容情報

広東は古来、粤(えつ)の国として独自の言語・文化圏を形成してきた。19世紀にはアヘン戦争などで列強の侵略の最前線に立たされたが、「改革・開放」の波に乗った現代の広東は日本企業の進出も多い。しかし、その文化や人については、意外に知られていない。「食在広州」の人たちは、日々何を考え、何を食べ、どのように暮らしているのか。延べ5年を超える現地での暮らしで見、聞き、食べた経験をもとに、庶民の日常を食卓・市場から浮き彫りにします。


●まえがき

●にぎやか飲茶の楽しみ方
●鮮度いのちの広東人
●ロースト広東、焼味の世界
●健啖広東、野味の世界
●勇気と経験で食べるモノ
●街角カフェの茶餐庁、洋食三昧西餐庁
●老火湯はきずなのスープ
●あったかごはんはヒトの尊厳
●「どこでもランチ」と「いつでもランチ」
●年年有「魚」はデルタの恵み
●熱気と陰虚の虚々実々
●恭喜発財は赤と金
●広州・香港行ったり来たり

●あとがき

まえがき

 中国の南の玄関口広州は、広東省を貫く珠江(じゅこう)の下流域にあって、長い歴史を誇る。古代の地方王朝、中近世の商業貿易センター、嶺南文化の中心地、アヘン戦争を契機とする西洋諸国とのかかわりの拠点など、歴史を通じて幾多の大きな役割を担ってきた。広州は現在も華南随一の大都市で、珠江デルタ地区一帯を含む広東語圏・広東文化圏の中心である。

 地元では西洋人の視点に合わせてか「東洋の真珠」と自らを称し、日本ではなぜか「一〇〇万ドルの夜景」の名で知られる香港。イギリスの植民地となって以来、中国とは異なる独自の道筋をたどってきたが、地勢や言語、文化などの点では広東語圏・広東文化圏の一部であり、多くの共通点を持つ。

 この二つの都市に珠江デルタ地区を加えた地域を、この本では便宜上「広東」と呼ぶことにしたい。広東には中国語で「粤」(えつ)という別名がある。広東語のことを粤語、広東の地方劇(カントン・オペラ)を粤劇と呼ぶのはこれに由来する。

 この一帯は亜熱帯だ。北緯二二度から二三度、台湾とほぼ同緯度だ。夏が長くて冬が短く、バナナやパパイヤなどさまざまな南国のくだものに恵まれている。香港は固いくの製品が供給されている。身の回りの愛用品が「メイド・イン・チャイナ」であることは今やごく当たり前だが、その中でも広東メイドのものは少なくないはずだ。

 広州と言えば、すぐに頭に浮かぶのが「食在広州」。中国は広くて地理や気候のみならず文化の多様性も大きいから、食の姿も地域により異なるが、広東の食は中国で最も多彩で豊富と言ってよい。広東の食文化の代表的なものに「飲茶」がある。今や日本にある中国料理店の多くがこれを売り物にするばかりか、スーパーのそうざい売り場にも飲茶の点心類がいろいろ並んでいる。その上、最近は上海や北京などに旅行しても「ガイドさんイチオシ」の「現地で人気の料理」として「飲茶」をさせられるほどだから、もう「飲茶」の起源なんてあまりわからなくなるほどだ。が、「ヤムチャ」という言葉は立派な広東語。それだけではなく、「シューマイ(焼売)」も「ワンタン(雲呑)」も「チャーシュー(叉焼)」も、その音は広東語起源なのである。

 広東語と言えば、ごく個人的な感覚だが、私の耳には広東語は大阪弁のように聞こえる。言葉そのものの特徴もさりながら、言葉を使う人たちのキャラクターやメンタリティにも、説明は難し学ぶためでも、美食の道を極めるためでもない。仕事や勉強という別な理由でかの地に住み、日々を重ねるにつれ、食べることや食べ物に関する経験がいつのまにか蓄積されたのだ。

 この本は「粤のくに」の食について書いたものだが、料理そのもののレシピや製法には触れていない。食材や調味料についての知識や薀蓄も語っていない。必ず行くべき名店の情報も要チェックメニューの知識もない。特に、高価な材料や贅を尽くした料理といったものには、薬にしたくてもお目にかかれない。その代わり、「粤のくに」の人たちはどんなものを、どんなふうに食べているか、彼らはなぜそれを食べるのか、それは私にとってどんなふうにおいしかったか(あるいはその逆か)、そうした食べ物の周囲を取りまく社会や文化のありさまとはどんなふうで、それがかの地の食にどう影響を与え、逆に食からどんな影響を受けているか……そういった話に行きがちになるだろう。ふとしたはずみのような形でこの土地と不思議な縁を持ってしまった身として、私はそこの社会と文化のありように興味を覚えてやまないからだ。そしてもちろん、食べることと食べ物にも。

 伝統を守っているか変質しているか、地元ならではに」の両方が、そこにある。

 なお、さきに述べたように、この本では広州と香港の二都市に珠江デルタ地区を加えた地域を「広東」と呼ぶ。「広東人」とか「広東料理」、「広東の食文化」などという言い方がこれにあたる。ただし、マカオもこの範囲に含まれるものの、私の経験が少ないため、この本にマカオの話は登場しない。また、香港を含まない中国大陸側の広東のことは、便宜上「広東省」という語に統一した。だがそれは珠江デルタ地域一帯を指し、行政区分としての広東省全域を意味するものではない。

食卓と市場はヒトの営みを映す鏡だ。香港・広州フリークにも、現地生産に汗を流す企業人にもきっと役立つ「食在広州」に生きる人々の日常。

内容説明

粤の国・広東はいにしえから独自の言語・文化圏を形成してきた。「食在広州」の人たちは日々何を食べどのように暮らしているのか。

目次

にぎやかな飲茶の楽しみ方
鮮度いのちの広東人
ロースト広東、焼味の世界
健啖広東、野味の世界
勇気と経験で食べるモノ
街角カフェの茶餐庁、洋食三昧西餐庁
老火湯はきずなのスープ
あったかごはんはヒトの尊厳
「どこでもランチ」と「いつでもランチ」
年年有「魚」はデルタの恵み
熱気と陰虚の虚々実々
恭喜発財は赤と金
広州・香港行ったり来たり