出版社内容情報
1年近くアジア各国を巡っていた旅人は、ドイモイ(刷新)が始まった直後の1988年に、その当時は〈未知の国〉であったベトナム(越南)に西側観光団の一員として入国、そのままビザを延長して独り旅を継続。その初体験を機に、ベトナムへの関心はますます高まり、何度も訪越を繰り返す。なぜ、それほど魅了されるのか。本書は、四半世紀にわたる戦火から解放され急速に変貌しつつあるクニの息遣いを、密度の濃い付き合いを通して浮き彫りにした、恋するベトナム旅物語。
【第一章】ベトナム管理旅行
◆西側観光団
◆カチューシャとウオッカ
◆灰色の町並み
◆フィリピンへの手紙)
【第二章】ベトナム自由びと
◆ミッドナイト・イン・サイゴン
◆両腕のない青年
◆マイとテト
【第三章】越飯街道
◆国道グルメ一号線
◆妻はご飯、愛人はおソバ
◆犬を食らう
◆ベトナム風おふくろの味
◆ベトナム北部越飯戦線
◆音のない世界
【第四章】サイゴン人
◆シクロドライバー顛末記
◆白い喪服
◆ミスター・ソルジャー
【第五章】日本発ベトナム
◆顔に日の丸、心に青天白日旗
◆日本企業尖兵隊
◆ナンバからの便り
【まえがき】
一九八八年、日本を離れて一年近く経とうとしていた私は〈旅の倦怠期〉を迎えていた。
旅を終わらせようか、それとも、自分の感性をごまかしてもつづけようか。そんな優柔不断な思いにさらされていたとき、バンコクの旅行代理店で一枚のパンフレットを手にした。印刷がかすれて粗雑なつくりのパンフレットは、とてもシュールに見えた。表紙に、アオザイ姿の女性が煉瓦造りの遺跡の前で日傘をさして立っているという写真が載っていた。ほかにも、マングローブに囲まれた運河をゆく小舟、古色蒼然とした町並み、モノトーンに染まった人々が、輪郭をぼやけさせ、色を滲ませて写っていた。ぜひ行ってみたいという衝動に、私はかられた。
当時のベトナムは、外国人が個人で観光ビザを取得し、単独で国内を移動することが規制されていた。国際社会から見放され、孤立したベトナムは、極度の経済悪化を招いていた。旅の情報などいっさい得られなかった。ツアーに参加する以外、入国の手立てが見つからなかった私は、バンコクの旅行代理店で一週間のツアーに申しこんだ。
ベトナム入国後、〈西側観光団〉の一員となった私は、おしつけがましいツアーを乗りきり、ように笑いとばしてしまう。
いいかげんで、ノーテンキな奴らめ……。
そんな彼らの結末はさておき、物事を一途にとらえがちな者にとって、ベトナム人の〈ガッツ〉は、その一部を心身に注入すると程よい緩和剤になるかもしれない。
現在、ベトナムはアジアのなかで一、二を争うほどの観光スポットに躍りでた。〈渋谷感覚〉で歩ける通りもそこらじゅうに出現し、国内をピクニック気分で移動することもできる。誰もが自由にベトナムを旅行できる環境が整ってきたのだ。もちろん、油断は禁物であるが……。
ベトナム初訪問から一二年も経過すると、ベトナム人との付きあいは当然のごとく深まっていった。だが、急進的な変貌を遂げるこの国の過去といまを比較すると、人間の心にそれほどの変化が現れたとはいえない。見た目が変わっても、国の経済が高まり自分たちの生活にゆとりが出てきても、人々は淡々とこういう――明日はどうなるかがわからない。結局のところ彼らは、これからもベトナム人らしく、したたかに生きていくのであろう。
ここ数年のあいだ、日本とベトナムを足繁く行き来していたためだろうか、私には両国の境界線が曖昧になりはじめた。ベ
南国の強烈な陽光、町中の喧噪、旅心をかきたてる不思議な息遣い、いいかげんでもガッツある人々。庶民と付き合い、戯れに発見した十二年ものベトナム。
内容説明
南国の強烈な陽光、町中の喧騒、旅心をかきたてる不思議な息遣い、いいかげんでもガッツある人々。混沌とした世界に魅せられ、戯れに発見した十二年ものベトナム。
目次
第1章 ベトナム管理旅行(西側観光団;カチューシャとウオッカ ほか)
第2章 ベトナム自由びと(ミッドナイト・イン・サイゴン;両腕のない青年 ほか)
第3章 越飯街道(国道グルメ一号線;妻はご飯、愛人はおソバ ほか)
第4章 サイゴン人(シクロドライバー顛末記;白い喪服 ほか)
第5章 日本発ベトナム(顔に日の丸、心に青天白日旗;日本企業尖兵隊 ほか)
著者等紹介
日比野宏[ヒビノヒロシ]
1955年、東京生まれ。80年代中ごろから、ファッション写真や人物ポートレートなどを中心に、フリーカメラマンとして活動する。87年11月より1年3か月間、アジア16か国を旅し、帰国後にその経緯をまとめた旅物語を『朝日ジャーナル』(朝日新聞社)、『ホットドッグプレス』(講談社)に連載する。91年4月『アジアASIA亜細亜無限回廊』『同2 夢のあとさき』(新評論、のちに講談社文庫)を発表。その後も紀行作家として活動し、単行本や雑誌のグラビアなどに作品を発表している
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