内容説明
アナーキズム&人類学、この魅惑的な結合から編み出される、よりよき世界を創るためのさまざまな術。真に変化しているものとは一体なにか?大いなる思考実験。
目次
まだ見ぬ日本の読者へ―自伝風序文
どうして学問世界には、アナーキストがかくも少ないのか?
グレーヴズ、ブラウン、モース、ソレル
すでにほとんど存在しているアナーキスト人類学について
壁を爆破すること
存在していない科学の諸教義
いくつかのまとまった考え方
人類学―ここで作者は自らを養う手に躊躇いがちに噛みつく
グレーバー現象について―訳者あとがきにかえて(高祖岩三郎)
著者等紹介
グレーバー,デヴィッド[グレーバー,デヴィッド][Graeber,David]
文化人類学者。活動家―DAN(Direct Action Network)、PGA(People’s Global Action)に参加
高祖岩三郎[コウソイワサブロウ]
翻訳家、批評家。ニューヨーク在住。Autonomedia、『VOL』編集委員。1980年渡米、以後、画商、グラフィック・デザイナー、翻訳業を勤める(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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松本直哉
23
「多数決民主主義はその起原において本質的に軍事制度だった」その決定を強制する力を持つ機構を前提とするゆえに。民主主義の発祥地ギリシャが極めて好戦的な民族だったことを思い起こす。国家は暴力であり、反国家勢力もまた、暴力を手段とする限りは同じ穴のムジナでしかない。全ての命令的関係性(兵役、賃労働、強制労働)を拒否し、より少なく働くことが人を自由にする。たった一人の異議申立てにも耳を傾け、粘り強く合意形成に努めること。人類学の知見から相対化される西洋的政治制度への懐疑とそこからの脱却への明るい希望に満ちた書。2017/01/01
ハチアカデミー
17
人類学を、「未開」社会を扱う学問ではなく国家的権力や警察がなくとも社会が成立しうる可能性を見出す学問であるとみなし、アナーキズムに接続する。「世界に実在する自己統治的共同体と非市場経済」の中に、資本主義とは異なる社会の可能性を見出そう、という宣言集である。モースの「贈与」を、貨幣を介さない交易によって社会が成り立つことの例証とし、国家は「想像された全体性」であり「理念」にすぎないと指摘。それらの自明性を剥奪する。ブルデューの孫引きだが、「学問社会とは学者たちが支配を目指すゲーム台である」なんて一文も強烈。2015/06/02
月をみるもの
16
"ひもじさで倒れそうな女性が、食べ物の山から数メートル離れて立っている。だが、われわれにはそれを取って彼女にあげることができない。なぜなら棍棒を持った男たちが現れ、われわれを打つからである。アナーキストたちは、このことをわれわれに思い起こさせることをよしとする” → つづく2021/08/14
takeapple
15
遂に共謀罪が可決された。もう議会制民主主義に希望が持てないのではないか、というか人類に国家は必要なのかと考えた時に読んでみた。人類700万年の歴史で国家が生まれたのは、1万年にも満たない時間でしかない。国家がなくとも平和に真に民主的に合意形成を図り生きている社会はたくさんある。アナーキスト人類学なんていうと過激な思想と思いがちだが、マルセル・モースやサーリンズ、ラドクリフ・ブラウンなどもアナーキストと言えるとしたらどうだろうか?西洋型以外の社会に学ぶことは実は多くあるのだと思う。2017/06/15
K.H.
10
マダガスカルでの体験から、アナーキズムの持つ可能性を、専門とする人類学と結びつける。全面的に賛成できるわけではないが大変興味深い論考だった。人類学の使命のひとつは、このようにして現存する体制へのオルタナティブを不断に突きつけることにあると思う。ただそれだけに、資本主義と結託する国家権力の強さも感じる。あと、マダガスカルに関しては体験談に止まらずにもっと分析的な論を語ってほしかったな、という注文も。『ブルシット・ジョブ』はじめ他の本も読んでみようかと思ったら、著者は最近亡くなっていたのか。2023/02/10