出版社内容情報
アジア社会科学研究協議会連盟(AASSREC)が、日本の社会科学がアジアの発展と環境問題をどのように認識しているかを確認することを目的に、2007年に開催した隔年総会の報告をまとめたもの。
はじめに(伊藤達雄)
刊行に寄せて(ジョン・ビートン)
序章 アジアにおける社会科学の連携の課題と展望(戒能通厚)
第1部 社会制度としての環境――社会科学からのアプローチ
まえがき(林良嗣)
第1章 自然環境と社会的共通資本(宇沢弘文)
第2章 環境限界に直面して――コモンズからの教訓(マーガレット・マッキーン/楜澤能生訳)
第3章 法律学からのコメント(楜澤能生)
第4章 環境問題と日本の役割――アジアへのパースペクティブ(淡路剛久)
第5章 「アジア環境協力」のための研究ネットワークづくりの重要性――淡路報告へのコメントに代えて(寺西俊一)
第2部 グローバル化時代の環境問題と社会科学91
第1章 グローバル化と社会環境
1.まえがき――「グローバル化と社会環境」という主題(西原和久)
2.ラオスからタイへの近年の国際人口移動(中川聡史)
3.「開発と環境」の二分論的論争の虚像――韓国セマングム干拓事業をめぐる環境問題論争を事例に(金■哲[■=木斗])
4.「気候の危機」とローカル環境ガバナンス(長谷川公一)
5.環境リスク社会における情報的環境民主主義に向けて――日本における汚染物質排出移動登録(PRTR)の制度化(寺田良一)
第2章 モノづくりと環境
1.まえがき(能勢豊一)
2.ロジスティクスにおける企業と消費者の協調による環境負荷低減のために(増井忠幸)
3.環境ソリューションに対するグローバルアプローチ(小松青磁・曽根俊行)
4.ビルの省エネルギーと次世代環境制御への取組み(大林史明)
5.閉ループサプライチェーンマネジメント――理論と実践(中島健一)
6.日本の伝統とモノづくり(涌田幸宏)
第3章 アジアの都市化と防災研究
1.まえがき(岡本耕平)
2.バンダアチェ津波災害と土地条件(海津正倫)
3.バンダアチェにおける津波被害と復興過程の重要問題(高橋誠)
4.中部地方の港湾周辺における災害の影響と対策の取組み(西村大司)
5.港湾の防災について――産業防災の取組み(宮本卓次郎)
第3部 国別報告要旨(小谷汪之編・訳)
国別報告
オーストラリア(ジェフ・ベネット)
バングラデシュ(ムハンマド・アブドゥル・ラヒーム・ハーン)
中国(張暁)
インド(ゴーパール・カデコーディ)
インドネシア(マクセンスス・トリ・サンボド)
イラン(シャフラー・ラティーフィ)
韓国(ジョン・デヨン)
マレーシア(ザワヴィ・イブラーヒーム/シャリーファ・ザリナ・セイエド・ザカリア)
フィリピン(ルス・ルステリオ・リコ)
スリランカ(シャンタ・ヘンナーヤカ)
タイ(プラピンワディー・シリスッパラクサナ)
ベトナム(ハー・フィー・タン)
日本(熊田禎宣)
オブザーバー報告
カンボジア(サム・チャムラン)
ラオス(ヴィエンサワン・ドンサワン)
パキスタン(パルヴェーズ・ターヒル)
台湾(何明修)
終章 社会のなかの科学者
まえがき(広渡清吾)
社会のなかの科学者――第17回AASSREC隔年総会における記念講演(吉川弘之)
あとがき(広渡清吾)
はじめに
本書は、2007年9月27日(木)~30日(日)の4日間、名古屋大学を会場に開催されたアジア社会科学研究協議会連盟(Association of Asian Social Science Research Councils:略称AASSREC)の第17回隔年総会に提出された全報告をまとめたものである。
AASSRECは、ユネスコが、1973年5月、アジアにおける社会科学研究の振興と相互交流を目的に、「社会科学の教育・研究に関するアジア会議」をインドのシムラで開催したとき、これに参加した13カ国の代表によって、アジアにおける社会科学系の国際的な学術組織の必要性が合意され、76年1月、イランのテヘランで第1回総会が開催されて発足した組織である。以後、ほぼ隔年に総会と理事会が交互に開催されてきた。
わが国は、89年に日本学術会議が正式メンバーとして加入し、毎回の総会に代表を送り、カントリー・ペーパーを提出してきた。日本学術会議の第21期からは、第一部所属のAASSREC・IFSSO分科会(小谷汪之委員長)が窓口となっている。
わが国はこれまで、93年に第10回総会を川崎市で開催した実績があり、日本での開催は2度目である。AASSRECの会長には、歴代、総会開催国の代表が就任してきていることから、2007~08年度の会長には戒能通厚日本学術会議第19期副会長がこれに当たり、今回の総会を統括した。
総会の統一テーマは、開催国が決める慣わしとなっていて、これまで、「都市化」「文化」「グローバル化」「貧困」「失業」「環境」「若者」など、時代や開催国の国情を反映したテーマがとりあげられ、その成果は出版物などとして蓄積されている。
今回の日本開催に当たっての統一テーマは、本書の表題となった「アジアの経済発展と環境問題――社会科学からの展望」とされた。近年のアジアの経済発展には著しいものがあるとともに、環境問題が地球規模の課題となって久しく、日本学術会議も、これまで何回もこれらの問題をとりあげ、アピールもしてきた。AASSREC総会の場で、アジア各国からの参加者とともに、それらに関する知見や見解を交換しあうことは時宜を得たものと理解された。さらに、日本学術会議は、日本で開催するなら名古屋で、と望んだ。当時、名古屋は、元気のいい製造業の中核地であるとともに、環境をテーマに掲げた2005年日本国際博覧会(愛知万博)が話題を呼んでいたことから、国外からの参加者に「経済と環境の両立」の現場を実見してもらえると考えてのことであった。この要望に、名古屋大学と名古屋に本部をおく日本環境共生学会とが、共催団体として応えることになった。
名古屋会議の企画運営には、日本学術会議、名古屋大学、日本環境共生学会の3者が組織委員会を構成してこれに当たり、日本学術会議の傘下にある24の社会科学系の学会が呼びかけに応じて参加した。
名古屋会議は、大きく四つのセクションで構成された。
第1は、国際的に知名度が高く、環境問題にも造詣の深い、内外の社会科学者5名を招待しての同時通訳付き公開シンポジウムであった。「社会制度としての環境――社会科学からのアプローチ」のテーマのもとに、宇沢弘文氏が「自然環境と社会的共通資本」を、マーガレット・A・マッキーン氏が「環境限界に直面して――コモンズからの教訓」を、淡路剛久氏が「環境問題と日本の役割――アジアへのパースペクティブ」を、それぞれ講演し、これに対して楜澤能生氏と寺西俊一氏がコメントを付した。ここでは環境問題に関する社会科学の役割や具体的な示唆が熱く論じられた。その全容が本書の第1部を構成している。
第2は、わが国の社会科学が、アジアの発展と環境問題をどのように認識しているかを確認することを目的に、共通テーマを「グローバル化時代の環境問題と社会科学」とし、日本の社会科学系の学界から第一線の若手研究者10名を指名しての、最新研究の成果を聴く場とした。その内容が第2部の第1章「グローバル化と社会環境」、および第2章「モノづくりと環境」にまとめられている。これに続く第3章には、世界的に頻発する地震、津波、暴風雨など、大規模災害に社会科学はどのように対応しうるかを、共通テーマ「アジアの都市化と防災研究」のもとに展開された四つの報告が掲載されている。うち2篇は国土交通省の現役行政官による特別報告で、社会科学と行政の連携の有用性が示唆されている。
第3は、AASSRECが本来の趣旨とする「アジアの社会科学研究の振興と連携」の場の提供である。今回は、各方面から寄せられた財政的支援によって、海外からの参加者に対する旅費等の組織委員会による全額負担が可能になったこともあって、加盟13カ国のほかに、オブザーバー3カ国と1地域も加わって、計17カ国・地域からの参加となり、それぞれからカントリー・ペーパーの提出があった。第3部は、それら大部のカントリー・ペーパーを、小谷汪之分科会委員長がコンパクトにまとめたものである。アジア諸国間の経済発展には大きな段階的格差があり、環境問題への対応も一様でないことは周知であるものの、17本の報告を並べたこの章は、その実情を明らかにした貴重な文献となっている。
第4は、主催者の一員である日本学術会議が、参加者に対してメッセージを発する場として企画された。ここでは、自然科学から社会科学までを俯瞰した広い知識と高邁な思想をもち、わが国の学術振興の先頭に立つ吉川弘之元日本学術会議会長を招いて、公開の講演をお願いした。本書の終章はそれをまとめたものであるが、AASSREC名古屋会議の総括にふさわしい内容となっている。
目次
アジアにおける社会科学の連携の課題と展望
第1部 社会制度としての環境―社会科学からのアプローチ(自然環境と社会的共通資本;環境限界に直面して―コモンズからの教訓;法律学からのコメント;環境問題と日本の役割―アジアのパースペクティブ;「アジア環境協力」のための研究ネットワークづくりの重要性―淡路報告へのコメントに代えて)
第2部 グローバル化時代の環境問題と社会科学(グローバル化と社会環境;モノづくりと環境;アジアの都市化と防災研究)
第3部 国別報告要旨(国別報告;オブザーバー報告)
社会のなかの科学者
著者等紹介
伊藤達雄[イトウタツオ]
名古屋産業大学名誉学長・特任教授、三重大学名誉教授、日本環境共生学会前会長
戒能通厚[カイノウミチアツ]
早稲田大学大学院法務研究科・法学部教授、名古屋大学名誉教授、第19期日本学術会議副会長(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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