内容説明
ミメーシス(擬態)とは、他者の期待や行為の形式を「ありそうな」仕方で模倣的に再現する行為をさす。インドの商業移動民ヴァギリは、移動先で出合う他者が夢に現れると、これを語り、自分たちの神としてミメーシスする。流動的な社会環境のなかで持続的にみずからを創出していく戦術を、ヴァギリの生活実践に探る。
目次
模倣からミメーシスへ
第1部 ミメーシスという生存戦術(複数の名前の狭間で;複数の生業と生活戦術)
第2部 夢見による社会構築(他者が神となる空間;夢の想起と社会構築)
第3部 夢見による社会変容(地域の神々との節合;キリスト教宣教と改宗)
付録
著者等紹介
岩谷彩子[イワタニアヤコ]
1972年生まれ。1998年ロンドン大学政治経済学院(ロンドン・スクール・オブ・エコノミックス)修士課程修了(社会人類学専攻)。1999年京都大学大学院人間・環境学研究科修士課程修了(文化・地域環境学専攻)。2005年京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程修了(文化・地域環境学専攻)。博士(人間・環境学)。現在は、広島大学大学院社会科学研究科マネジメント専攻准教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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mittsko
9
素晴らしい!完ぺきな民族誌! 問題設定、概念選択、調査の質と量、論旨展開… どれをとっても一級品。長らく積読にしていた己を恥じました、すいません_(._.)_ 博論に基づく本書、何かの賞で顕彰すべきだぞと調べてみたら、無事「10年度日本宗教学会賞」を受賞なさってた。当然だ、もっとデカい賞でもよかった!とにかく素晴らしいのだから! 人類学者として著者が出逢ったのは、インドの「ジプシー」ヴァギリ。この被差別民中の被差別民と生活をともにすること計2年弱。その日常のなかから夢とミメーシスに貫かれた人の生を活写する2019/02/23
★★★★★
3
インドの「ジプシー」、商業移動民ヴァギリについての民族誌。ミメーシス(擬態)という概念を用いて、他者やイメージを模倣はするが決してそれとは同化せずに、絶えず変化する関係の中で自己のあり方を調整し続けるヴァギリの生を記述する。マジョリティ社会に同化したり、抵抗論のように他者の持つイメージを戦略的に流用して価値体系の転倒を図るのではないということ。特に他者表象とミメーシスを論じた前半は面白かったけれど、やはりミメーシスという概念が曖昧な気がする。2011/10/11