出版社内容情報
ニューカマーの子どもたちの高校進学、その後の高校生活や大学進学などにつき大阪における先進的な取り組みがサポート態勢などを含め様々な角度から論じられる。そして8つの府立高校での特色ある教育実践が現場の教師の報告や生徒の生の声を併せて紹介される。
はじめに(志水宏吉)
第1部 イントロダクション
第1章 ニューカマーと日本の学校(志水宏吉)
1 はじめに
2 グローバル化と個人化
3 ニューカマーとは誰か
4 ニューカマーの教育課題
5 大阪の教育とニューカマー
第2章 高校進学と入試(乾美紀)
1 ニューカマーと高校教育
2 高校進学の現状と要因
3 日本におけるニューカマーの高校入試
4 おわりに――ニューカマー生徒が利用しやすい入試制度とは
第2部 大阪の教育
第3章 同和教育を土壌とする学校文化とニューカマー教育(新保真紀子)
1 ニューカマーの高校進学率が高い大阪
2 同和教育の土壌とマイノリティ支援
3 「進路保障は同和教育の総和」
4 障害者生徒の府立高校進学
5 在日韓国・朝鮮人教育の始まりと深化
6 ニューカマー教育の始まり
第4章 連続するオールドカマー/ニューカマー教育(中島智子)
1 はじめに
2 大阪における在日朝鮮人教育の取り組み
3 在日朝鮮人の高校進学
4 高校におけるオールドカマー/ニューカマー
5 在日外国人高校生の在籍状況
6 高校における取り組み
7 おわりに
第5章 大阪府におけるニューカマーと高校入試(鍛治致)
1 大阪府におけるニューカマー
2 大阪府における高校入試
第6章 校内サポート体制(新保真紀子)
1 ニューカマー高校生を支援する校内体制づくり
2 ニューカマー生徒支援の課題
第7章 府立高校における日本語教育支援(新矢麻紀子)
1 はじめに
2 大阪府教育委員会による府立高校対象日本語教育支援システム
3 高校における日本語指導体制と人材の配置
4 おわりに
第8章 子どもをつなぐ支援ネットワークづくり(榎井縁)
1 はじめに
2 子どもをつなぐ教員ネットワーク
3 教育行政主導型の支援ネットワークの形成
4 地域国際交流協会でつくる少数点在校への支援ネットワーク
5 おわりに
第3部 生徒たちの素顔
第9章 「ちがい」からみえてくるもの(棚田洋平)
1 外国人高校生との出会い
2 大阪のニューカマー高校生
3 高校まで生き残るのはだれか
4 まとめ
第10章 小・中学校から高校へ(石川朝子)
1 はじめに
2 渡日の経緯の多様性
3 小・中学校での思い出を振りかえって
4 おわりに
第11章 人間関係を築く(比嘉康則)
1 はじめに
2 ニューカマー生徒はどのような人間関係を築いているのか――全体の傾向
3 男子と女子
4 特別枠校と定時制課程
5 排除経験の有無
6 おわりに
第12章 「今―ここ」から描かれる将来(今井貴代子)
1 はじめに
2 「将来はどうしたいですか?」
3 5タイプの将来展望
4 過去・未来にひらかれた「今―ここ」
5 おわりに
第4部 高校紹介
第13章 門真なみはや高校――普通科総合選択制におけるアイデンティティ保障の取り組み(石川朝子/大倉安央)
1 普通科総合選択制と渡日生徒
2 渡日生徒へのアイデンティティ保障の取り組み
3 王先生のライフヒストリー――民族講師によるアイデンティティの伝達
第14章 長吉高校――ちがいとちがいをつなぐ教育実践(棚田洋平/友草有美子/森山玲子)
1 はじめに
2 学校の概要
3 単位制への移行と「さまざまなルーツをもつ生徒」の支援体制
4 多様な生徒を支える多様な支援者
5 外国人生徒を受け入れるということ
6 おわりに
第15章 八尾北高校――校舎の中心からの多文化オアシスづくり(山本晃輔/橋本義範)
1 はじめに
2 八尾北高校の概要
3 多文化共生部オアシスの1日
4 外国人生徒を学校へ積極的に位置づける
5 集団作りとしてのオアシス教室
6 おわりに
第16章 成美高校――「みんな成美の生徒」:学校全体で取り組む「内なる国際化」 (中島智子)
1 はじめに
2 学校概要
3 「中国帰国生徒及び外国人生徒入学者選抜」と在籍状況
4 中国帰国生徒及び外国人生徒教育指針と体制
5 抽出授業と補習授業
6 中国文化「春暁」倶楽部
7 成美高校の特徴と今後の展望
第17章 布施北高校――礼に始まって礼に終わる:中国人の良いところを学んで欲しい(鍛治致)
1 学校の概要
2 中国帰国・渡日生の受け入れ
3 孟先生の講演録から
第18章 千里高校――外国人支援の伝統に根ざした新たな挑戦(新矢麻紀子/岡崎節子)
1 はじめに
2 渡日生徒指導の概要
3 千里高校らしさの秘密
4 生徒たちの日常
5 むすびにかえて
第19章 平野高校――普通科の中のニューカマー(奥村美保)
1 平野高校の日常
2 ニューカマー生徒の学校生活
3 ニューカマー生徒が語る高校生活
4 生徒を支える学校で
第20章 春日丘高校定時制課程――一人ひとりの「学校に通う意義」をささえる(今井貴代子/大坪義男)
1 はじめに
2 定時制の特徴
3 ニューカマー生徒に対する取り組み
4 生徒一人ひとりの「学校に通う意義」
5 おわりに
用語集
はじめに
本書は、この3年間における、編者を代表とする大阪大学ニューカマー研究会の研究活動の成果をまとめたものである。
私が以前から感じていたのは、日本では、外国人の子どもたちの就学や学力・進路の実態がほとんど明らかにされていないことその結果として、彼らの存在が見えないままに「放置」される傾向が強いことであった。例えば、私がかつて2年間を過ごしたイギリスでは、「エスニック・モニタリング」という考え方があり、エスニックグループごとの英語の能力や学力の測定がなされ、それをもとにして、社会的不平等の是正という観点からの教育政策がとられていた。
この20年ほどの間に日本のニューカマー人口はほぼ倍増しており、日本人と外国人との共生という問題は、ますます重要な社会問題とみなされるようになってきている。それなのに、教育の分野における彼らへの対応は、いまだ限定的なものにとどまっていると言わざるをえない。
そうした現状を打破したいと思い、私たちは大阪の地で新たな共同研究をスタートさせた。その手始めに着手したのが、大阪の府立高校に対する訪問・聞き取り調査であった。その過程で明らかになってきたのが、大阪の高校の「がんばり」である。本論で明らかにされているように、私たちが調べたかぎりでは、外国人生徒が公立高校に進学する比率は大阪府が最も高い。私たちは、その事実を誇らしく感じている。
その事実を広く人々にアピールすること、具体的には、ニューカマー教育にたずさわる人々が何をどのように実践しようとしているのか、そして府内の高校に通う外国人生徒たちが何を思い、何をなそうとしているのかを、私たちなりの視点から一般の読者の方々にできるかぎりわかりやすく伝えること、それがこの本の執筆を思い立った動機である。
本書の構成を簡単に述べておきたい。この本は全体で四つのパートから成り立っている。
第1部は、全体のイントロダクションにあたる部分である。第1章は「ニューカマーと日本の学校」というテーマについての概説で、本書全体の序章としての位置づけを有している。それに続く第2章は、外国人にとっての高校入試と高校進学というテーマについて、日本全体の状況を考察したものである。
第2部は、「大阪の教育」と題して、ニューカマー高校生をサポートする教育現場のあり方についてさまざまな角度から切り込んだ、いわば本書の中核をなす部分である。扱われるテーマは、「同和教育を土壌とする学校文化とニューカマー教育」(第3章)、「連続するオールドカマー/ニューカマー教育」(第4章)、「大阪府におけるニューカマーと高校入試」(第5章)、「校内サポート体制」(第6章)、「府立高校における日本語教育支援」(第7章)、「子どもをつなぐ支援ネットワークづくり」(第8章)の六つである。
第3部「生徒たちの素顔」は、ニューカマー高校生たちに対する聞き取りやアンケート調査にもとづいて、彼らの実像に迫ろうとした四つの論稿を集めている。それぞれの章のテーマは、「『ちがい』からみえてくるもの」(第9章)、「小・中学校から高校へ」(第10章)、「人間関係を築く」(第11章)、「『今―ここ』から描かれる将来」(第12章)である。
最後の第4部「高校紹介」では、私たちの調査に協力していただいた府立高校の中から八つの高校を選び、それぞれの特色ある教育実践について、先生方や生徒たちの助けを得ながら記述を行った。ニューカマー生徒が学ぶ高校の現在の姿を感じ取っていただければと思う。
(…後略…)
目次
第1部 イントロダクション(ニューカマーと日本の学校;高校進学と入試)
第2部 大阪の教育(同和教育を土壌とする学校文化とニューカマー教育;連続するオールドカマー/ニューカマー教育 ほか)
第3部 生徒たちの素顔(「ちがい」からみえてくるもの;小・中学校から高校へ ほか)
第4部 高校紹介(門真なみはや高校―普通科総合選択制におけるアイデンティティ保障の取り組み;長吉高校―ちがいとちがいをつなぐ教育実践 ほか)
著者等紹介
志水宏吉[シミズコウキチ]
1959年生まれ。東京大学大学院教育学研究科博士課程修了。現在、大阪大学大学院人間科学研究科教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。