台湾研究叢書<br> 台湾人元日本兵の手記 小説集『生きて帰る』

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台湾研究叢書
台湾人元日本兵の手記 小説集『生きて帰る』

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  • サイズ A5判/ページ数 230p/高さ 22cm
  • 商品コード 9784750328089
  • NDC分類 923.7
  • Cコード C0336

出版社内容情報

植民地下の台湾で「日本陸軍台湾特別志願兵」として日本軍に志願させられ、南方戦線に従軍・転戦した、台湾人元日本軍兵士の回想記。台湾現代詩を代表する詩人・陳千武による、実体験に基づく短編小説集。来日時の貴重な講演「日台の狭間に生きる」も収録。

序文『生きて帰る(活著回来)』の意味(陳千武)

手旗信号
死の予測
戦地の初年兵
困惑の季節
鬱憤晴らし
夜街の誘惑
横暴と我慢
女軍属

講演「日台の狭間に生きる――台湾人元日本兵が語る半生」(陳千武)

 陳千武・年譜(紀旭峰)
 解説 戦争の記憶――陳千武を読む(松永正義)
 訳者あとがき(丸川哲史)
 執筆者紹介

訳者あとがき(一部抜粋)

(…前略…)

 この幾つかの作品を集合させた『生きて帰る』に一貫している視点の質というもの、それは、もちろんのこと松永正義氏が指摘するところの台湾という独特なポジションがもたらした歴史の条件をはずしては考えられないことであるが、翻訳している最中、私の皮膚感覚に強く残ったことは、残酷なほどに覚めた意識を保持し続けてきた書き手の意志だった。
 『生きて帰る』は、単純な意味での記録や回想以上の力によって構成されたものだ、と私には思える。お読みになった方であれば、おそらくどなたでも感得できるだろう――戦争という激しく残酷な人為的出来事と、その出来事の背景となる主人公にとっての異郷イメージ、そしてさらに自分が出て来た故郷の記憶の想起というこの三つの要素が、絶妙のバランスで重層し、作品世界を豊かに構成している事実である。このような絶妙のバランス感覚の中に、自己を正気のままで保持し続ける力が漲っているように、私には読み取れたのである。
 だがこの自己を保持する力は、だから戦争という無慈悲に容赦なく人の命を奪っていく過程において(そしてさらに戦後台湾の権威主義体制下の生活において)、いわば良質の文学的アイロニーを育てることになった、と言えるのではないか。たとえば、輸送船もろとも若い多くの初年兵の命が奪われた場面でも、「しばらくし、ごうごうと荒れ狂っていた海面は、一切れの焼けた板切れも残さず、すぐに冷え切り本来の姿に戻った」とあるように、実にそっけなく描写されている。陳氏の眼差しにあるのは、人の命が無残に押しつぶされた後での、むしろ静まり返った「世界」への親密な感覚であるように思う。
 この境地においては、だから人間の死は具体的な描写以上に、むしろ「死」の行き着く場所にかかわるアイロニカルな態度を示すことになるようだ。「台湾特別志願兵が死んだら、日本兵と同じように靖国神社に入るのだろうか?」という曖昧な感慨は、またすぐその後で「当然、死後はやはり祖先の霊といっしょになる、これが自然の法則だろう」と否定されている。この否定は、イデオロギーまたはイデオロギー批判であるより、むしろ単に健全な感覚であるわけだが、この健全な感覚を保持して、あの時代を、そしてあの時代を引き継いだその後の時代(台湾へと帰還した後)を生き延びた、ということがまさに驚異なのだ。
 しかして、この健全な感覚を保持し続ける中で身に着けたアイロニーは、それが反転したところで「ユーモア」を生み出す契機ともなっている。日本軍の下働きをさせられていた軍属カルロス隊長が蜂起した際、日本兵に対して「あなたがた三人は先に死んでいただく。そうしないと日本が負けることになる…」と言わせる場面は、まさにユーモアを漂わせた場面であるが、すぐにその後で、カルロス隊長の眼差しを通じて、「三人の日本兵士をじっと見ていたが、『天皇陛下万歳』の声もなく、靖国神社に行ってしまった」とあるに及んで、むしろこの「靖国神社に行く」という「通説」そのものがユーモアと化すわけである。このような良質のアイロニー(あるいはユーモア)は、まさに日本人兵士において皆無か、あるいはきわめて少数においてしか発露し得なかったものではないか、と思える。
 さてしかし、このようなアイロニーが十分に作品世界において展開しているにしても、そこに至るまでに、やはり多大なエネルギーが使われたことを想像することが必要であろう。松永正義氏の解説にもあるが、かつて日本兵であることは、戦後の台湾社会において、つまり大陸で日本軍と戦っていた国民党政権下において、隠しておくしかなかった記憶である。戦後の社会において、元日本軍の兵士だった台湾人は、ある意味では一挙に他律的に日本人でなくなってしまった。その意味でも、「民主化」が進み、十分に自己表現が形式的には可能になった時点で、「日本人」として生きてきたことにかかわる懐かしさを吐露する老人たちも多く見受けられたわけである。
 そういった現象について、形式的に戦後的価値観から批判することはあまり意味のないことであるが、こういった問題をどのように処理するかということについて、『生きて帰る』は、一つの大きな筋道を示してくれたように思う。つまりかつて「日本人」として生きていたことを、作品化(対象化)を通じて処理する方途である。

(…後略…)

著者等紹介

陳千武[チンセンブ]
詩人。1922年、台湾南投県生まれ。本名・陳武雄。日本統治期の台中第一中学校卒業後、日本軍台湾陸軍特別志願兵としてポルトガル領東ティモールに従軍。台湾に復員後、1946年から73年まで林業管理所に勤務、のち台中市政府庶務課長、市立文化センター主任を歴任。詩誌『笠』主宰、台湾ペンクラブ会長、児童文学協会理事長、台湾現代詩協会顧問などを務める。1992年国家文芸翻訳功労賞、2002年国家文学賞受賞

丸川哲史[マルカワテツシ]
1963年、和歌山県生まれ。一橋大学大学院言語社会研究科博士課程単位取得退学。明治大学政治経済学部准教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。