出版社内容情報
韓国高等学校国定歴史教科書(2006年版)の翻訳書。韓国は第7次教育課程から通史の反復学習をやめ、高校1年で分類史を学び、2・3年は近現代史等の選択制になった。本書は前者の分類史を扱い、政治史・経済史・文化史などの視点から韓国史を捉え直す。
はじめに
1 韓国史の正しい理解
1.歴史学習の目的
2.韓国史と世界史
2 先史時代の文化と国家の形成
1.先史時代の展開
2.国家の形成
3 統治構造と政治活動
1.古代の政治
2.中世の政治
3.近世の政治
4.近代胎動期の政治
5.近現代の政治
4 経済構造と経済生活
1.古代の経済
2.中世の経済
3.近世の経済
4.近代胎動期の経済
5.近現代の経済
5 社会構造と社会生活
1.古代の社会
2.中世の社会
3.近世の社会
4.近代胎動期の社会
5.近現代の社会
6 民族文化の発達
1.古代の文化
2.中世の文化
3.近世の文化
4.近代胎動期の文化
5.近現代の文化
訳者注
付録
翻訳を終えて
翻訳を終えて
本書は、韓国の高校生が現在学んでいる第7次教育課程『国史』教科書の全訳である(教育課程は日本の学習指導要領にあたる)。一部分ではなく全訳を通してこそ、韓国の高校生がどのような歴史を学んでいるかがわかる。すぐ隣の国でどのような歴史を教えているのか、あるいは学んでいるのかを理解することは、日本と韓国が一衣帯水の地であることを考えるとぜひとも必要なことだろう。
教科書にどのようなことが、どのように記述されているかを探っていくと、自ずと隣国でありながらも、その考え方や見方が違うことに気づかされる。私たちは、その違いにこそ価値を見いださなければならない。違いを違いとして認め合い、それを前提にしなければ友情は深まらないからである。読者のみなさんにはぜひこの点を念頭に置きながら、本書を読み込んでいただければ幸いである。
さて、今回の『国史』教科書は、前回の第6次教育課程のもの(大槻健、君島和彦、申奎燮訳『新版 韓国の歴史 第二版――国定韓国高等学校歴史教科書』明石書店、2003年)とは構成が一変している。章立てを見ればわかるが、「1 韓国史の正しい理解」「2 先史時代の文化と国家の形成」は別としても、3以下は「3 統治構造と政治活動」「4 経済構造と経済生活」「5 社会構造と社会生活」「6 民族文化の発達」と、分類史の形態をとっている。以前は、初等学校[小学校]、中学校、高校でくり返し韓国史通史を教えるようになっていた。しかし、第7次教育課程が完全に実施された2004年からは、そうしたくり返しの通史学習ではなく、高校では1学年で必修「国史」を分類史の形で学び、2、3学年では選択科目の一つとして「韓国近現代史」を学ぶことになった。
このような分類史はかなりユニークな試みといえる。初等教育から中等教育においてどのようにその国の歴史を学ぶかは、それこそそれぞれの歴史がある。多くの国では、学年別に時代を追って学習している。今回の試みのように分類史の形で歴史を学習することにはグローバリズムの潮流を意識していることがうかがえる。
現場の教師たちに聞くと、必ずしも今回の試みが歓迎されているわけではないことがわかる。なんといっても、学習しづらいのである。甲申政変や甲午改革のような韓国近現代史の重要なできごとが、政治・経済・文化のそれぞれの章で扱われる。重要な事件であるほど、社会の各分野にわたって影響を及ぼすわけだから、それは当然のこととなる。より根本的には、歴史がそれぞれの分野ごとに変化するのではないから、はたしてこのように政治は政治史で、経済は経済史でというように学ぶことができるのかという批判も成り立つ。逆に言うと、教師の力量が問われることにもなる。現在の第7次教育課程では、カリキュラムは各学校で工夫することが求めれている。したがって、教科書の1ページから順に教えることが決められているわけではないし、政治史と経済史、社会史、文化史を総合的に理解させる授業が求められているともいえるのである。
さらに、本来、第7次教育課程では、必修の「国史」では前近代史を学び、選択科目として「韓国近現代史」を学ぶことになっていた。ところが、それでは韓国の近現代史を学ばない高校生が生まれていいのかという批判が高まり、教育課程を手直しして、必修「国史」に近現代史部分を大幅に取り入れ、本書のような構成となった。例えば、「3 統治構造と政治活動」は「1.古代の政治」「2.中世の政治」「3.近世の政治」「4.近代胎動期の政治」の次に、「5.近現代の政治」が位置づけられている。以下、各章の最後は「近現代の○○」というように、現代までを扱っている。学習時間は変わらないのに近現代史までを扱うことにしたので、前近代史も含めて大幅に記述が変更された。それが、2006年、つまり今年であった。
現在、選択教科である「韓国近現代史」の教科書は検定制度に基づいて5社から発行されている。『国史』教科書は初等学校(「社会科」)から高校まですべて国定であるが、2010年までには検定となるという。『国史』教科書が検定となることには賛否両論があるが、やはり歴史の理解は自由に議論ができなければ深まらないことを考えると、国定教科書はふさわしくないだろうし、また韓国であれ、日本であれ、教科書の採択にあたって現場の教師たちの意見が無視されるようでは歴史教育の深まりは望めないといえる。
前回の『国史』教科書からは、記述の視角も変わっている。特に、北朝鮮の政治や経済についても記述されるようになった。まったく触れられなかった前回に比べて、例えば政治史では「北韓の政治」「統一への努力」が、文化史では「北韓文化と芸術の理解」が記述され、同胞の歴史が北でも刻まれているというメッセージが込められている。
このように、韓国の歴史教科書も次第に変化している。その変化の先を見すえつつ、本書が、日本と韓国の教師や市民、学生たちが歴史教育をめぐって忌憚のない意見をかわしつつ、友好を追求する一助となることを願っている。
2006年11月
翻訳者 三橋広夫
内容説明
現在、選択教科である「韓国近現代史」の教科書は検定制度に基づいて5社から発行されており、『国史』教科書は初等学校(「社会科」)から高校まですべて国定である。B5版、433ページ多色刷りの原本を簡略化して翻訳紹介した。
目次
1 韓国史の正しい理解
2 先史時代の文化と国家の形成
3 統治構造と政治活動
4 経済構造と経済生活
5 社会構造と社会生活
6 民族文化の発達
著者等紹介
三橋広夫[ミツハシヒロオ]
1951年生まれ。早稲田大学教育学部卒業。千葉市立花園中学校勤務(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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