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アジアにおける人口転換―11カ国の比較研究

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  • サイズ A5判/ページ数 331p/高さ 22cm
  • 商品コード 9784750324012
  • NDC分類 334.32
  • Cコード C0036

出版社内容情報

アジア11カ国(カンボジア、インド、ベトナムほか)における多産多死から少産少死への過程である人口転換を分析。出生を人々の行為の結果として捉え、社会・文化・宗教など社会的な価値観に焦点をあわせ、出生率とGDP等の推移から各国を検証した研究書。

推薦の言葉
謝辞
はじめに
序論
 1 本書の視座
 2 人口転換理論について
 3 人口転換指数(DTI:Demographic Transition Index)について
 4 人口転換の条件
 5 対象国の人口転換指数
 6 各国分析の要約
第1章 人口転換が遅れている諸国(DTI 0.5未満)
 1 ラオス(DTI 0.41)
 2 カンボジア(DTI 0.45)
 3 パキスターン(DTI 0.48)
第2章 人口転換が進み始めた諸国(DTI 0.5~0.8)
 4 ミャンマー(DTI 0.63)
 5 インド(DTI 0.71)
 6 フィリピン(DTI 0.78)
第3章 旧ソ連邦(モンゴルを含む)における人口転換(DTI 0.76~0.84)
 7 モンゴル(DTI 0.76)
 8 カザフスタン(DTI 0.83)
 9 ウズベキスタン(DTI 0.84)
第4章 人口転換が進んだ諸国(DTI 0.85以上)
 10 べトナム(DTI 0.85)
 11 イラン(DTI 0.86)
おわりに
文献リスト
注釈
索引

はじめに
 現在、日本では少子高齢化問題が深刻となり、人口増加という意味での人口問題に対する関心はほとんど失われてしまった。かつて、わが国は非欧米として初めて人口転換を成し遂げ、その驚異的な経済成長とともに奇跡と言われた。しかし今日ではわが国をはじめとする先進国では少子化が進行し、人口の置き換え水準を下回り、長期的に見ればその人口規模を維持することすらできなくなっている。先進国にとって人口増加ではなく少子化が大きな問題として浮かび上がっていることは当然であるとも言える。
 しかしながら、地球規模で見れば、これから少なくとも50年間は人口増加の問題がもっとも大きな問題であることは間違いない。今後の人口増加はそのほとんどが後発開発途上国(LLDC)で起こると考えられている。これらは貧しく、資源も十分にない国々で、多くの場合、その自然環境もこれ以上の負担に耐えられなくなっている。このように人口増加の余地がないと考えられる国々で、これからの人口増加は起こるのである。経済的に見てもこの人口増加は生産性の向上などに繋がらず、大きな負担となると予測されている。
 つまり、地球規模で見た場合、地球環境の維持や安定的な社会を構築するためには途上国の人口増加の安定化は今後ももっとも重要な要素であり、その安定化なくして地球規模で長期的な安定や平和を作り出すことはできないと言える。この意味で、急激な人口増加の原因を探り、その対処法を考えることは国際的な開発協力の中できわめて重要であり、人口の急増している途上国の開発にとって、多産多死から少産少死への移行過程である人口転換を達成することは基本的な条件となる。
 これまで開発研究は、おもに経済学の分野でおこなわれてきた。その結果、開発研究の成果もまた経済学を中心として生み出されてきた。途上国の人口に関する研究も同様である。途上国の持続可能な開発にとって不可欠な要件となる人口転換に関する議論も、とくに政策に貢献できるようなマクロの分野の業績は、経済学的な分析以外にはほとんど皆無であったと言って良い。
 本書で扱う人口問題は、通常、“現在の地球人口は65億人である”というように数字であらわされる。これは、“数”という点で考えれば単なる数字でしかないが、その“数”を構成している一つひとつの数字が生きて生活している人びとである。それぞれの夢を持ち、それぞれの人生を生きている。この意味では国際政策や国際協力の課題として人口を考える場合、その人たちが何を考え、どのような価値観を持ち生きているのかを知らなければならないのは当然であると言える。しかし、これまで途上国の人口増加は、国際政策の対象や課題として扱われることはあっても、その人たちが何を考えているのか、つまり、人びとの価値観や世界観がどうなっているのかということに対する関心はあまりなかったと言えるのではないだろうか。
 本書では、著者がおこなってきたアジア16カ国における調査の中から11カ国にわたる現地調査の結果を提示しているが、アジア主要国の中で、もっとも人口の多い中国を除外している。その理由は、中国の人口については一人っ子政策を含め世界的な研究の集積があり、ここで各国別研究として扱う紙幅に収まりきれず、機会を得て独立して扱ったほうが良いと考えたことによる。ここでは、各国の事例を検討することで、経済学的な人口転換論で説明できない事例を含め、さまざまな人口転換のパターンを分析し、社会的行為としての出生の転換を中心に、人びとの価値観という視点から、人口転換の新しい分析枠組みの提示を試みた。本書は基本的に、出生行動を行為として捉え、その変化を行為の変化として分析している。その意味では行為や世界観を中心に分析しているが、同時に通常、社会学的な分析では定数として無視される自然環境等を分析の要素に加えている。
 本書のテーマである人口転換は、出生の転換と死亡の転換から成る。これは多産から少産への転換と、多死から少死への転換のふたつが組み合わさって生じる現象である。これまで主力であった経済学的な分析では、出生は定数的に扱われ議論されることが少なく、むしろ死亡が重要な変数として考えられてきた。これに対して社会学的な分析では“行為”としての出生の転換(以下、出生転換)をおもに扱うことになる。このように同じ社会科学であっても社会学的方法と経済学的方法ではその分析視角は異なり、同じ対象を扱っても共通の理解を形成するとは限らない。学問的方法論が違う場合、それらの異なった方法論に基づく分析の結果を総合することは決して容易ではない。つまり、分析視角が違えば対象として把握される要素も異なり、議論を整合的におこなうことは難しい。
 この総合の困難さについては、さまざまな議論があり得る。ひとつの考え方としては、ある分析では「定数」として、「前提」として考えられていた要因が、分析視角を変えることで、また、論じる領域を変化させることで、「変数」として「分析されるべき条件」に変化したため論じる前提が変化し、同じ条件で検討ができない結果であると考えることができる。意識していないものを対象として把握し、分析することは難しい。同じ対象を扱う社会科学といってもこのような差異が存在する。
 本書の主題である出生転換を社会的な行為として総合的に扱うという視点は、開発分野ではそれほど一般的とは言えない。なぜなら、これまで開発研究の中心であった開発経済学の分野では、制度論的な視点から社会学的な視点や社会心理学的な視点を取り入れる努力もおこなわれてきたが、それが主流となるには至っていないと言えるからである。さらに社会学の分野では、国内の分析や比較的規模の小さい集団をおもに取り扱ってきたことと、価値判断論争などが尾を引いてきた結果、少なくとも日本の社会学で国際的な対象を包括的に取り扱う分析は主流とは言えなかった。その結果、社会学者が開発分野に携わることはあまりなかったのである。このように、学問分野の違いによる分析視角の違いや方法論上の問題および開発分野に対する社会学からの参入そのものが少ないことから、国際的な問題に対して分析をおこなうためには総合的な分析が必要であるにもかかわらず、その有効性や妥当性を形成するうえで不可欠な、総合的な視角の形成が阻害されてきたと言える。
 本書の基本的な分析視点である社会学は、人間の価値観と外在的条件の関係を取り扱ってきた。これは、社会学創始以来の基本的視点であったと言える。さまざまな社会がその社会を支え環境を超えては存在できないのと同時に、同じ環境条件の中であっても、まったく異なった価値観や社会制度が存在し、文化の恣意性という言葉であらわされる多様性を形成している。これは言葉を換えれば、経済環境、技術発展の程度、生態環境などの条件の変化がどのように人間の価値観に影響を与えるのか、また、人間の価値観がどのようにこれらの条件を変化させるのかということでもある。地域研究や国際研究(国際学)は、本来対象によって規定される学問である。そこで求められることは、各分野の専門を超えて、対象をいかに有効に分析するかが重要となる。その意味では通常の方法論で規定されている学問分野を超えた総合的な分析をおこなうことが必要となる。
 そこで本書では、さまざまな条件が人間の行動を制限し、その中で人間の価値観がさまざまな条件を制御するという仮説を導入した。これはマイケル・ポラニーの「層の理論」によっている。この理論は、さまざまな現象を、連続する「層」として捉えるものであり、上位の層は下位の層を「制御」し、下位の層は上位の層を「制限」する、というものである(ポラニー[1980])。人口に関してこれを適用すれば、人口に関する行為を規定している社会的価値観が上位の層にあたり、その社会を取り巻く自然環境要因が下位の層にあたる。つまり、上位の層は、下位の層の限界を超えては存在し得ないが、その形態がどのようなものになるかは上位の層の独自の論理に任され、それに従った形で自然条件が利用されることになる。したがって、結果としてその社会を取り巻く自然環境への適応を果たすことになり、それが意識されるわけではない。これはまさしく社会学的に言う潜在的機能の構造を説明すると同時に、「人口」と「社会的価値観」およびそれを取り巻く「外在的な条件」との関係を包括的に説明する説明枠組みとなっている。
 この仮説を人口転換の過程を分析することで検証することが本書の目的である。そこで、本書では、経済的な人口転換論で説明できない事例を含め、各国の事例を検討することでさまざまな人口転換のパターンを分析し、社会的行為としての出生転換を中心に、人口転換の新しい分析枠組みの提示を試みた。これは社会学的分析と開発経済学など、開発分野で主流を成している他の分野との接合可能性を拡大するものである。
 ここで重要な要素となったのが価値観に基づいた行為の具体的なあるべき様式である規範とそれを支える条件に対する考察であった。私たちの行為は経済的理由やさまざまな要素で彩られている。人口転換も同じである。本書の中では各国の人口転換の現状を要素を挙げて説明している。これは各国の比較研究の中で経験的に発見された要素である。さまざまな条件も価値観の変化をもたらさなければ変化への契機とはなり得ないし、人びとの行為を支える価値観がさまざまな外在的条件によって支持され得なければ長期的に維持されることは難しい。これは社会学がそのはじめから研究対象としてきた主観的な意味=価値観と外在的な条件がどのような関係を持っているかということを示すものでもある。
 言うまでもなく本書が扱う研究範囲は非常に広範なものであり、同時に社会科学が抱えるさまざまな制約の中にある。しかし、それらの不十分さや制約の中にあるとしても、アジアの11カ国にわたる現地調査の結果を踏まえ、一貫した視点で出生転換を分析した事例はあまりないと思う。本書がいくぶんかでも途上国の人口問題を解決に向けるうえで必要となる基本的な学問の集積や連携、そして政策形成に資することができれば幸いである。

内容説明

本書はアジア11カ国の出生力転換を各国の宗教をはじめとする文化・社会の社会的価値観を中心に分析したものである。

目次

序論 (本書の視座;人口転換理論について ほか)
第1章 人口転換が遅れている諸国(DTI0.5未満)(ラオス(DTI0.41)
カンボジア(DTI0.45) ほか)
第2章 人口転換が進み始めた諸国(DTI0.5~0.8)(ミャンマー(DTI0.63)
インド(DTI0.71) ほか)
第3章 旧ソ連邦(モンゴルを含む)における人口転換(DTI0.76~0.84)(モンゴル(DTI0.76)
カザフスタン(DTI0.83) ほか)
第4章 人口転換が進んだ諸国(DTI0.85以上)(ベトナム(DTI0.85)
イラン(DTI0.86))

著者等紹介

楠本修[クスモトオサム]
1962年生まれ。玉川大学文学部英米文学科卒業(理財専攻)。日本大学大学院文学研究科社会学専攻、博士後期課程単位取得満期退学。博士(国際学)明治学院大学。財団法人アジア人口・開発協会研究員、主任研究員を経て事務局長に。所属学会、日本社会学会、経済社会学会、日本法社会学会、関東社会学会、日本大学社会学会(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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