もうひとつのチベット現代史―プンツォク=ワンギェルの夢と革命の生涯

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  • サイズ B6判/ページ数 536p/高さ 20cm
  • 商品コード 9784750323176
  • NDC分類 289.2
  • Cコード C0022

出版社内容情報

第2次世界大戦前、チベットの地を共産主義により改革することを胸に抱き、西蔵高原と中国大陸を縦横無尽に駆け回ったプンツォク=ワンギェル。新中国成立後はチベットと中国の間の交渉の場にあり貴重な役割を果たす。その歩みはもうひとつの現代史である。

はじめに
第1章 カムパ
第2章 チベット革命への道
第3章 解放されたのか
第4章 ラサにて
第5章 極左主義と反乱と
第6章 飢餓から狂気へ
第7章 よみがえった虎
おわりに 高さの問題、あるいは通説のできかた
参考文献
年 譜
索 引

はじめに
 一九四〇年代、第二次世界大戦が始まったころ、チベット高原に革命のために戦う集団があった。
 チベット政府に改革を迫り、中国の軍閥支配を転覆して全チベット人地域にわたる国家をめざした。この集団の指導者はプンツォク=ワンギェル(中国語表記では平措汪傑、あるいは平措旺傑。一九二二年―)、通称はプンワン(平汪)という人物である。
 チベット人地域ではあらゆる日常生活に仏教の色合いが濃い。その宗教的社会のなかでプンワンは信仰とは全くあい反する唯物論者となり、チベット人社会の改革をめざすのである。かれは生命の危険に何回か直面しながら、地下活動、十八年にわたる獄中生活、そして哲学研究という歓喜と苦難とに満ちた人生をおくってきた。
 わたしがプンツォク=ワンギェルを知ったのは、中国の「文摘旬刊」(一九九六年七月)誌にのった経歴紹介だった。そののち、チベット高原の農業を調べようとして地方誌などに当たっているときふとかれの名前が現れ、こんなところにこの人物はいたのかという懐かしい感じにうたれたことがあった。それが重なると、この人とそれをとりまくチベット人社会に非常な魅力を感じて、中国の貧困地帯の研究をしていたのを一時棚上げして革命家プンワンの履歴を調べることにした。
 二、三年かかって資料を集め、プンワンを訪ねて過ぎこしかたを聞きとり知識を蓄積したが、それをとおして見えてきたものは、チベット人農牧民をまきこんだ「こんなはずではなかったが」という意外なできごとの連続だった。かれらの幸福は目の前までやってくるが、次のページをめくるとそれはゆがみ、期待とはかけはなれたものとなって揺らぎ消え去り、ときには苦難の連続となるのである。かれの活動とその紆余曲折がわかってくるにしたがい、わたしは個人としてのプンワンに執着するだけでなく、かれをめぐる事件の背景を知りたいとおもうようになった。だからこの本はプンワンの生活歴政治歴をとおしてみたチベット現代史である。
 現在までに、プンツォク=ワンギェルの全経歴を紹介した中国語文書が三つある。ジャンベン=ギャツォ(降辺加措)著「平措旺傑和他的『弁証法新探』」(雑誌「中華児女」)と、王凡と陳淑梅著「歴史上不会忘記的人」(「人物」(一九九六年第三期))である。ダウェイシラオ(達喜)著『葛然朗巴=平措汪傑(平汪)小伝』(私家版)はチベット語と中国語によるもので、その英語への抄訳はDaweixirao,“A Brief Biography of Phuntsok Wanggyal Goranangpa”である。三編ともごくおおざっぱにプンワンを紹介するだけで本格的な伝記ではない。ジャンベン=ギャツォは中国社会科学院のチベット人研究員にして作家、プンワンの故郷巴塘の人でプンワンをよく知る人物である。著書『班禅大師』(東方出版社 一九八九年)は日本語にも翻訳されている。王凡・陳淑梅・ダウェイシラオは、内容から見てプンワンに非常に近い人物である。伊丹才譲編著『雪域哲人的思弁之花』(当代中国出版社 一九九九年)は、このうちジャンベン=ギャツォと、王凡と陳淑梅のものの二編を一部省略して採録し、プンツォク=ワンギェルに関する新聞記事や出版記念会などでの関係者の発言とともに、年譜を掲げて一冊としたものである。
 本書のアラ原稿が仕上がって出版社探しに手間どっていた二〇〇四年、Melvin C. Goldstein, Dawei Sherap, William R. Siebenschuh の三人による“A Tibetan Revolutionary; the political life and times of Bapa Phuntso Wangye”; University of California Press という大著が出版された。アメリカのチベット学者ゴールドシュタインがプンワンにインタービューして伝記を書こうとしていることは、プンワン自身から明かされていた。この本はプンワンの一人称で書かれており、プンワンをめぐるさまざまな個人材料を詳細に記していて、私の調査では不十分だったエピソードをいくつか提供してくれた。

目次

第1章 カムパ
第2章 チベット革命への道
第3章 解放されたのか
第4章 ラサにて
第5章 極左主義と反乱と
第6章 飢餓から狂気へ
第7章 よみがえった虎
おわりに 高さの問題、あるいは通説のできかた

著者等紹介

阿部治平[アベハルヒラ]
1939年生まれ。東京教育大学農学部卒業。全国農業協同組合中央会職員、埼玉県高等学校教諭、中国天津外国語大学附属外国語学校教師、大阪外国語大学モンゴル語科非常勤講師等を経て、現在農業に従事。専攻、中国地理(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー

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Hisatomi Maria Gratia Yuki

1
通勤読書には物理的にも、また半ば以降は内容的にも重く、先月中に読了したかったのだが、果たせず。なにしろ中共の手前勝手な革命とやらに翻弄されたり反抗したり巻き込まれたりする人々の死屍累々のシーンが続くので、非常につらい。『悪魔の飽食』を大人になってから読み返したときに次ぐつらさかもしれない。しかも、その死屍累々は今も終わっていないのだ。だが、だからこそそこを生き抜いて哲学書をものしたプンワンの運の良さと偉大さがじわじわと染みてくる。2016/04/03

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