アジアの就学前教育―幼児教育の制度・カリキュラム・実践

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  • サイズ A5判/ページ数 259p/高さ 22cm
  • 商品コード 9784750323039
  • NDC分類 376.122
  • Cコード C0037

出版社内容情報

アジア各国における就学前教育の位置づけを、歴史的・文化的背景をもとに解説。幼稚園・保育園の教員養成の仕組み、教授法の探究をはじめ、多言語、コンピュータ学習など情報化に対応した多彩な保育事業の展開について、現地の最新情報をレポートする。

はじめに
東・東南アジア地図
第1章 韓国――主題活動による生活に根ざした就学前教育
 1.幼児教育の制度・行政
 2.保育者の資格
 3.幼児教育のカリキュラム
 4.幼稚園・保育園の現状
第2章 中華人民共和国――早期多面注力の就学前教育
 1.幼児教育の制度
 2.保育者の養成制度―保育士(保育員)と幼稚園教諭(教養員または幼師)の2分化養成制度
 3.幼児教育のカリキュラム
 4.幼稚園の現状
 5.幼児教育の方法と理念
第3章 台湾――サービスと保育の質の間で揺れる幼児教育
 1.幼児教育の制度・行政
 2.保育者の養成制度
 3.幼児教育カリキュラム
 4.幼稚園・託児所の現状
 5.幼児教育の方法
第4章 ベトナム――「ホーおじさんのよい子ども」を育てる幼児教育
 1.幼児教育の制度・行政
 2.保育者の養成制度
 3.幼児教育カリキュラム
 4.幼稚園・保育園の現状
 5.幼児教育の方法
第5章 タイ――グローバル化時代における伝統文化の保持と揺れる学力観
 1.幼児教育の制度・行政
 2.教員の養成制度
 3.幼児教育カリキュラム
 4.幼児教育施設の現状と教育方法
 5.幼児教育の方法
第6章 マレーシア――マレー語による統合と英語による国際化を目指す幼児教育
 1.就学前教育の制度・行政
 2.保育者の養成制度
 3.幼児教育カリキュラム――「国民就学前教育カリキュラム」(PNC)を中心に
 4.幼稚園・保育園の現状
第7章 シンガポール ――グローバリゼーション対応の幼児教育
 1.幼児教育の制度・行政
 2.保育者の養成制度
 3.幼児教育カリキュラム
 4.幼稚園とチャイルド・ケア・センター(CCC)の現状と教育方法
第8章 インドネシア――道徳的価値と知識習得の調和を目指して
 1.幼児教育の制度・行政
 2.保育者の養成制度
 3.幼児教育カリキュラム
 4.幼稚園の現状
第9章 フィリピン――近年の格差是正政策の成果と課題
 1.幼児教育の制度・行政
 2.幼稚園の教員資格
 3.カリキュラムの指針
 4.事例―マニラ郊外の名門私立幼稚園―
 5.幼児教育の格差
第10章 日本――幼児教育の歴史と少子化への対応
 1.日本の幼児教育の歴史
 2.幼稚園と保育所の制度と保育内容
 3.近年の改革動向
おわりに
索引

はじめに
 本書は東・東南アジア9カ国に日本を加えて、アジア諸国の就学前教育の歴史的経緯と最新動向を概観し、今後の幼児教育の展望を“アジア”という視点から巨視的に俯瞰(ふかん)しようと試みた。もとよりアジア圏を最大に捉えるならば、インド、スリランカなどの南アジア、旧ソ連領の中央アジア、アラブ諸国の西アジアも含まれるべきであるが、後述のように本書は東アジアと東南アジアを扱った2つの科研費研究プロジェクトからその企画が始まったこともあって、対象国は9カ国にとどまっている。
 しかしアジアの就学前教育の制度やカリキュラムを体系的に比較検証した同種の研究書は、阿部洋先生の編集で1983年に刊行された『世界の幼児教育1 アジア』(日本らいぶらり)以降長らくなかった。また今般グローバリゼーションの大波の中で急速に進展する内外の幼児教育の動向を鑑みると、主だった国々の執筆が可能となった時点で研究成果をまとめ、国内関係者の方々に提供すべきであると考えて刊行に踏み切ることとした。
 この20年間、アジアは政治的・経済的・社会的に変動し、幼児教育にも大きな地殻変動が生じた。東西冷戦の終結による社会主義思想の退潮、インドネシアとフィリピンの民主革命、中国の改革・開放経済の驀進(ばくしん)、NIES(韓国、台湾、香港、シンガポール)の経済発展、1997年からのアジア金融危機、アメリカ経済・文化とのさらなる融合・深化、SARSなどの高致死率病原体のボーダレスな流布・感染など、振り返ってみればいずれも今日の就学前教育の変革に結びつくような出来事であったように思う。各章で示される幼児教育の理念や政策の変遷、保育内容・方法の現状をみていただければ、その影響の端々を感じ取ることができるだろう。
 今回取り上げた9カ国は、1990年代に金融危機に直面したものの、大局的には順調な経済発展を遂げ、初等教育の普及期を終えつつある。現在は中等教育の多様化と大学教育の拡大へと政策の重点が移っており、これと並行して就学前教育についても、保育内容の標準化や保育者の養成・研修制度の整備、施設・設備の向上に取り組み始めている。また他の教育段階と同じように幼児教育においても、民間教育機関・産業の国境を超えた展開、英語や国際理解、コンピュータといった教育内容の導入、伝統文化への回帰や愛国心の育成など、グローバリズムの潮流に対応した動きも顕著となっている。具体的な事例分析は各章に委ねたいが、本書末の「おわりに」でも総括的に比較検証を行うこととしたい。
 各国の章立ては、前半部で就学前教育の政策や制度、カリキュラムの概説、後半部で実際の活動状況の紹介という順に統一して編成した。各国間での比較検証を容易にするとともに、比較教育や幼児教育などを専門とする大学教員や研究者、現場を担う幼稚園教諭・保育士の方々の双方のニーズに配慮したためである。特に後半部分では、実際の子どもたちの活動の様子や壁面などの製作物、利用している教材の写真などを掲載し、アジアの幼児教育現場の息吹や具体的な保育内容・方法が伝わるように図った。
 なお、冒述の通り本書の執筆内容の多くは、平成13-15年度「幼児期からの国際理解教育構築への多角的アプローチ」(研究代表者: 山田千明)、平成14・15年度「タイ・マレーシア・シンガポールにおける就学前教育の実態に関する実証的比較研究」(同: 池田充裕)の2つの科学研究費補助金の交付を得て、研究参加メンバーが直接現地で収集した最新情報に基づいている。調査にあたっては本書でもご執筆いただいた崔順子先生や翁麗芳先生をはじめとする各国関係者の方々から多大なご協力をいただいた。また両研究プロジェクトが対象としていなかったベトナム、インドネシア、フィリピンについては、出口真弓氏、服部美奈先生、市川誠先生からご執筆をご快諾いただいたことで、より多角的なアジアの就学前教育の比較が可能となった。編集にあたった者として改めて感謝の意を表したい。
 本書になお記述が不十分な点、統一のとれていない箇所があることは十分承知しているところであるが、読者の方からもさらにご指摘・ご斧正(ふせい)いただき、本書を土台にアジアの就学前教育に関する比較研究が重ねられ、さらには他地域でも同様の研究が進展していくことになれば幸甚である。
 
2006年3月1日
編著者代表 池田充裕

内容説明

本書は東・東南アジア9カ国に日本を加えて、アジア諸国の就学前教育の歴史的経緯と最新動向を概観し、今後の幼児教育の展望を“アジア”という視点から巨視的に俯瞰しようと試みた書です。

目次

第1章 韓国―主題活動による生活に根ざした就学前教育
第2章 中華人民共和国―早期多面注力の就学前教育
第3章 台湾―サービスと保育の質の間で揺れる幼児教育
第4章 ベトナム―「ホーおじさんのよい子ども」を育てる幼児教育
第5章 タイ―グローバル化時代における伝統文化の保持と揺れる学力観
第6章 マレーシア―マレー語による統合と英語による国際化を目指す幼児教育
第7章 シンガポール―グローバリゼーション対応の幼児教育
第8章 インドネシア―道徳的価値と知識習得の調和を目指して
第9章 フィリピン―近年の格差是正政策の成果と課題
第10章 日本―幼児教育の歴史と少子化への対応

著者等紹介

池田充裕[イケダミツヒロ]
山梨県立大学人間福祉学部人間形成学科助教授。山形県酒田市出身。筑波大学第二学群人間学類(教育学専攻)卒、同大学院博士課程教育研究科単位取得退学、文部省アジア諸国等派遣留学生として、シンガポール国立大学に留学の後、日本学術振興会特別研究員、山梨県立女子短期大学を経て現職。山梨大学教育人間科学部非常勤講師(「現代教育論」担当)

山田千明[ヤマダチアキ]
共栄学園短期大学社会福祉学科助教授。福井県出身。AFS交換留学生として米国ミネソタ州キャンビーハイスクールに留学。筑波大学第二学群比較文化学類卒、同大学院修士課程教育研究科修了、同大学院博士課程教育学研究科単位取得退学。茶道総合資料館(裏千家今日庵)職員、高校教諭、筑波大学教育学系助手を経て現職。宇都宮大学教育学部非常勤講師(「幼児教育の方法2」担当)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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