タイ・マッサージの民族誌―「タイ式医療」生成過程における身体と実践

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  • サイズ A5判/ページ数 330p/高さ 22cm
  • 商品コード 9784750322919
  • NDC分類 498.022
  • Cコード C0039

出版社内容情報

「タイ式医療」という医療システムが形成する中で、タイ・マッサージに関してその権威や正統性がどのような形で構築されてきたかを社会・文化的側面を含めた広い視野から明らかにしている。タイにおけるフィールドワークをもとにしたタイ・マッサージの民族誌。

はしがき
凡 例
第1章 序 論
 第1節 本書の目的
 第2節 問題の所在
 第3節 調査の概要
 第4節 本書の構成
第2章 タイ・マッサージの歴史的・制度的背景
 第1節 西洋近代医療の導入と伝統医学知識の集大成
 第2節 伝統医療の制度的周辺化と性産業・観光産業の中の「古式マッサージ」
 第3節 伝統医療復興運動
 第4節 「タイ式医療」の制度化
第3章 チェンマイ・伝統式病院の「治療」活動を通じた正統性の再生産
 第1節 病院の概況
 第2節 マッサージ師
 第3節 クライアント
 第4節 「治療」の場面
第4章 伝統式病院の教育・普及活動を通じた正統性の再生産
 第1節 マッサージ習得コースの生徒
 第2節 マッサージ習得コースのカリキュラム
 第3節 「師」の権威
 第4節 外部向けのマッサージ研修
 第5節 外部での奉仕活動
第5章 伝統式病院におけるマッサージ師の熟練過程
 第1節 練 習
 第2節 治療実践に埋め込まれた技術習得
第6章 「ビープ・セン」―― 北タイ農村の日常生活におけるマッサージ
 第1節 村の概況
 第2節 村人がマッサージを用いる文脈
 第3節 マッサージ治療者とその実践様式
 第4節 治療の場面
第7章 農村における医療・観光サービスとしてのマッサージの誕生
 第1節 メーヂェームにおける「土着の医療」プロジェクトの概況
 第2節 マッサージ研修
 第3節 「病院の医者になった」治療師
 第4節 村民クリニック
 第5節 観光サービスとしてのマッサージ
第8章 結 論
あとがき
図・表・資料・写真リスト
参考文献
索 引
 事項索引
 人名索引

はしがき
 日本人の渡航先で上位を占める国、タイを旅行した人の中で、タイ・マッサージを受けたことのある人は少なくないだろう。ホテルやスパ・サロンはもちろん、寺院の境内から歓楽街に至るまで、様々な場所にタイ・マッサージの看板がある。旅行プランの中にタイ・マッサージが組み込まれているパッケージ・ツアーも多い。それらに誘われて受けてみると、全身を揉みほぐされてついウトウトするのも束の間、意表を突くようなポーズをとらされて、日頃伸ばすことのない体のあちこちがグッ、グッとストレッチされていく。「怠け者のヨガ」とはよく言ったもので、マッサージの好きな人ならクセになりそうな「痛キモチよさ」だろう。多少の荒技も旅の土産話の種になる。
 最近では日本国内にもタイ・マッサージが広まりつつある。店や学校が増えてきている上、日・タイの自由貿易協定(FTA)交渉においては、タイ政府が日本にタイ・マッサージ師の受け入れを要求している。
 しかし、タイ・マッサージに関する出版物といえば、技法のマニュアルばかりである。それらの中で若干の歴史的・思想的背景が述べられてはいるものの、現代タイにおける社会的実践を主題として具体的に扱ったものは、今のところ皆無である。技術のもとにはそれを担う人々がおり、それを培う社会がある。例えば、タイではどのような人々がどのようなときにタイ・マッサージを利用するのだろうか。マッサージ師はいかなる経緯でマッサージ師となり、いかにして知識を伝承しているのだろうか。また、タイ・マッサージが国内外で評価され、消費されることはタイ社会に少なからぬ影響を与えていると考えられるが、人々はそうした事態をどのように経験しているのだろうか。こういったことについてはあまり知られていない。
 本書では、タイ・マッサージのやり方でも医学的効能でもなく、その社会・文化的側面に焦点を当てる。本書はグローバルな動きの中におかれたローカル社会の人々のタイ・マッサージをめぐる営みを、チェンマイでの二年半にわたるフィールドワークに基づいて記述した民族誌である。
 タイ・マッサージが現在ほど広範に普及されたのは、かつてないことであると言って良い。タイ・マッサージはタイの伝統的な医療技術といわれるが、それは太古の昔から変わらず受け継がれてきたわけでも、消えつつある過去の遺産というわけでもない。そもそも「伝統医療」とは、社会によって生み出され、変化する動態的なものである。「伝統医療」の生成や変化は、その社会の「伝統」とは何かという歴史的正統性の問題や、いかなる治療法・健康維持法が社会的権威を持つかといった問題にかかわっている。本書では、タイ社会においてタイ・マッサージに関する権威や正統性がどのように構築されているかを、マクロ・ミクロの両レベルで明らかにする。
 一九九〇年代後半、タイではタイ・マッサージの店や、タイ・マッサージを治療法として採り入れる病院が、全国各地で増加していた。当時、タイ政府は「タイ式医療」なるものを制度化し、タイ・マッサージを全国に普及していた。マッサージ師を養成する講習も各地で頻繁に開かれていた。タイ政府の政策には、世界保健機関(WHO)の施策や、国内の医療従事者を中心とした伝統医療復興運動などが影響している。しかし、それらを受容し、支える社会的土壌がなければ、その影響はここまで大きくはならなかったであろう。
 本書では、人々がタイ・マッサージについて語っていることと、人々の身体が紡ぎ出す実践との関係に着目する。具体的な状況において実践されるタイ・マッサージは、必ずしも国家レベルで構築された「正統なタイ・マッサージ」と同一ではない。また、タイ・マッサージは都市のエリートを中心とした人々に再評価されているが、農村では必ずしも同様の状況ではない。それはなぜだろうか。そして、それにもかかわらず進行している学校教育化の流れや、各地の農村に及んでいるタイ・マッサージの普及活動に、人々はどう対応しているのだろうか。都市と農村での調査に基づき、このような社会的文脈に即した実践の多様性を描き出したい。

目次

第1章 序論
第2章 タイ・マッサージの歴史的・制度的背景
第3章 チェンマイ・伝統式病院の「治療」活動を通じた正統性の再生産
第4章 伝統式病院の教育・普及活動を通じた正統性の再生産
第5章 伝統式病院におけるマッサージ師の熟練過程
第6章 「ビープ・セン」―北タイ農村の日常生活におけるマッサージ
第7章 農村における医療・観光サービスとしてのマッサージの誕生
第8章 結論

著者等紹介

飯田淳子[イイダジュンコ]
1971年生まれ。総合研究大学院大学文化科学研究科修了、博士(文学)。川崎医療福祉大学医療福祉学部助教授。専攻は文化人類学、医療人類学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー

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山田

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図書館の本は何故かカバーが剥がされていて悲しい…ポストモダン民族誌にやられた傷が癒されるような素朴な民族誌…さすが博論だ…2016/07/17

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