在日コリアンに権利としての日本国籍を

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  • サイズ B6判/ページ数 191p/高さ 19cm
  • 商品コード 9784750322698
  • NDC分類 329.91
  • Cコード C0036

出版社内容情報

在日コリアンにとって、国籍とは何か。研究、ビジネスなど様々な分野で活動している執筆者たちが、それぞれの体験、歴史認識を語りながら考え、問いかける。年々、増加する日本国籍への帰化という現実を受けて、いまこそ権利としての日本国籍取得を訴える。

はじめに
総論 「国籍取得権」とは何か(佐々木 てる)
第一部 在日コリアンに権利としての日本国籍を
 第1章 「在日コリアンの日本国籍取得権確立協議会」設立の経緯(李 敬宰)
 第2章 確立協議会発足にあたって(呉 崙柄)
 第3章 コリアン系日本人宣言の秋(鈴木 啓介)
 【国籍問題Q&A】
 第4章 在日韓国・朝鮮人と国籍(李 敬宰)
 第5章 「帰化」ではない国籍の取得(呉 崙柄)
 第6章 在日は「朝鮮系日本国民」への道を(坂中 英徳)
 【特別永住者等の国籍取得の特例に関する法律案】
第二部 在日コリアンと国籍問題
 第7章 なぜ在日の国籍を語らないのか(鄭 大均)
 第8章 在日韓国・朝鮮人はなぜ外国人なのか――在日の日本国籍について(青柳 敦子)
 第9章 民族性は維持し国籍は個の選択に(金 両基)
 第10章 日本国籍取得の経緯――韓国系日本人として(金 俊熙)
 第11章 「在日系日本人」という試み(夫 徳柱)
資料

はじめに
 最近、在日コリアンと日本社会の関係が、以前とは明らかに違うと感じることが多い。それは経験上というより、一九九〇年以前に書かれた在日コリアンに関するものについて、違和感を覚えるという意味においてである。それまでの言説が変だと言っているのではない。むしろ非常にあたり前だと感じることを、こんなに苦労して言わなくてはならなかったのかという違和感であり、また必要以上の攻撃性を感じることもある。
 確かに日本社会では、在日コリアンに対する差別がいまだに存在している。「2ちゃんねる」を見れば、表層的な差別発言を繰り返す書き手がいる。制度的な差別も存在する。ただそれでも、以前は「越えられない壁」のように思われていた、在日社会と日本社会の境界が溶解しつつある。映画では金城一紀原作の『GO』、井筒和幸監督の『パッチギ』、梁石日原作、崔洋一監督の『血と骨』などが注目を集めた。韓流ブームの影響で、月9の時間帯にも在日コリアンを主題としたテレビドラマ(『東京湾系』二〇〇四年)も放送されていた。また韓国や、在日コリアンのこれまでの言説を批判的に扱う、『嫌韓流』(晋遊舎、二〇〇五年)というマンガが注目を集めている。こうした一連のメディアを通じて気づくことは、在日コリアンへの眼差しが、以前より複眼的になっていることである。これは日本社会における在日コリアンが、特別な存在ではなく「身近な」存在として認識されはじめた証明と言える。
 在日コリアン社会も変化している。在日コリアンの民族団体の多くは、これまで日本社会と「闘う」側面を全面に出してきた。ところが一九九〇年頃から多文化共生の意識が強くなっている。私は以前、年配の研究者から「在日問題はうかつなことを言う(書く)と怖い」から気をつけるようにと忠告(?)をいただいたことがある。だが、実際多くの「在日コリアン(もしくはコリア系日本人)」とカテゴライズされる人々と交流すると、印象が大きく変わる。あたり前のことだが人によって考え方が違うし、想像するより多様なのである。もはや在日(問題)が特別に怖いという言葉はあてはまらない。民族的な出自の違いは今や他の多くの違い(年齢、性別、地位、出身地など)の一つへと解消されつつある。
 「国籍取得権」を求める運動は、こうした日本社会と在日コリアン社会双方の変化が背景にある。もう少し正確に言えば、「日本社会と在日コリアン社会」と二分して描くことが、すでに現実味を失っている状態を出発点としている。在日コリアンと呼ばれる人々の生は、日本人と同様に多様で複雑なものとなっている。本書で述べられている「コリア系日本人」という考え方も、こうした複雑な生を生きるための技法の一つに他ならない。

 本書はタイトルの通り、「在日コリアンの国籍取得権」について書かれたものである。それぞれの執筆者が、在日コリアンにとっての国籍の意味を考え、問いかけている。ただしそこで語られることは、個人的な体験、歴史認識、現状認識、社会制度の視点など様々である。だから全体に共通する主張は「国籍取得権の確立」であるが、むしろ国籍について考える本と捉えてほしい。
 本書の構成は次の通りである。総論では「国籍取得権」に関する基本的な考え方、問題点を整理している。本書の導入として読んでいただければ幸いである。第一部は「在日コリアンの日本国籍取得権確立協議会(以下「確立協」とする)」の主旨、その運動の主たる担い手の考えが書かれている。また第二部は在日コリアン問題や国籍問題と深く関わってきた人々の意見である。これらの意見は、国籍を考える際の指標として参考にしてほしい。執筆者について簡単に紹介しておく。
 李敬宰氏(「確立協」会長)はこれまで「大阪高槻むくげの会」で在日コリアンの人権運動を積極的に展開してきた。彼のこだわりは民族性やイデオロギーにはない。むしろ現実的に不快だと思ったことに対し、意義申し立てをしている。これまでの在日コリアンの国籍問題に関して、何が不快であったのか是非注目して読んでほしい。
 呉崙柄氏(「確立協」副会長)は在日コリアン一世として、荒川区の「コブクソン子ども会」で民族意識を継承させるための活動を行ってきた。呉氏自身は、もともと「帰化反対論者」であったが、「一八〇度転回」したと述べている。では認識の変化を促したきっかけは何であったのか。その点に注目してほしい。
 鈴木啓介氏(「確立協」事務局長)は長年「〈多文化共生をめざす〉在日韓国・朝鮮人生徒の教育を考える会」の世話人を務め、多文化共生の学校・地域づくりに取り組んできた。鈴木氏の主張は常に「次世代の子どもたち」の立場に立っている。
 坂中英徳氏(「確立協」顧問)は、二○○五年に東京入国管理局を退職され、「脱北帰国者支援機構」を立ち上げた。生涯日本の外国人の問題に携わろうという決意を持っている。氏は、以前「在日韓国・朝鮮人自然消滅論」を述べ、「コリア系日本人」としての生き方を提示した。長年行政の現場にいた方の意見として捉えたい。
 第二部の執筆者は研究者、在野の活動家など様々である。
 鄭大均氏はすでに多くの方がご存知かもしれない。その著書は常に論争的であり、刺激に満ちている。だが鄭氏は内に閉じていない。常に開かれた論争を望んでいる。本書で書かれた内容も、人によっては耳が痛いかもしれない。だがそれは問題の核心をついているからである。是非刺激を受けてほしい。
 青柳敦子氏は「国籍確認訴訟」を行ってきた故宋斗会氏に影響を受けた日本人活動家である。宋斗会氏は「自分は日本人だ、日本国籍がないのはおかしい」と主張し、生涯日本国家と闘い続けてきた。青柳氏はその宋氏の思想を受け継ぎ、今も活発な活動を続けている。今回はそれらの活動を通じて考えた、国籍について述べている。
 金両基氏は在日コリアン研究者として、すでに多くの研究業績を残されている。今回の論文は二○○一年の『論座』に掲載されたものを、特別に依頼して再録させていただいたものである。日本社会、在日社会の両方にバランスよく目配りし、「国籍」と「民族」との関係性を問い直している。スタンダードな意見として是非参考にしてほしい。
 金俊熙氏は日本国籍を取得し、民族名を名乗っているコリア系日本人である。本書では「日本国籍取得」の経緯を、実体験を通じて語っている。現実にどのような考えで国籍を取得したのか。具体的な問題は何があるのか。これから日本国籍を取得しようとしている人々の参考になる。
 夫徳柱氏は執筆者の中で唯一、(彼の言葉を借りれば)「在日コリアンの三世とされる者」である。彼の言葉は同じような世代の在日コリアンに最も響くであろう。自己のアイデンティティの多層性を正面から捉え、自分の言葉で表現している。若い世代の勢いを感じてほしい。
 本書をきっかけに多くの在日コリアン、コリア系日本人にとって、「生きやすい社会」になることを切に願っている。そして同時に、日本社会の多くの人に、これまで以上に隣人としての在日コリアン、コリア系日本人の存在に気づいてほしいと思う。

二○○五年一〇月一〇日
佐々木 てる

目次

総論 「国籍取得権」とは何か
第1部 在日コリアンに権利としての日本国籍を(「在日コリアンの日本国籍取得権確立協議会」設立の経緯;確立協議会発足にあたって;コリアン系日本人宣言の秋;在日韓国・朝鮮人と国籍;「帰化」ではない国籍の取得;在日は「朝鮮系日本国民」への道を)
第2部 在日コリアンと国籍問題(なぜ在日の国籍を語らないのか;在日韓国・朝鮮人はなぜ外国人なのか―在日の日本国籍について;民族性は維持し国籍は個の選択に;日本国籍取得の経緯―韓国系日本人として;「在日系日本人」という試み)

著者等紹介

佐々木てる[ササキテル]
1968年生まれ。筑波大学社会科学研究科修了。博士(社会学)。筑波大学人文社会科学研究科社会科学専攻技術職員(準研究員)。主な専門は、国際社会学、ネーション・エスニシティ問題、生活史研究(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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