出版社内容情報
近年の中国の情報化の進展は世界の注目を浴びている。「情報鎖国」から「情報立国」へ、国家の情報化政策と情報化戦略の在り方、国家の政治基盤の維持と経済大国を目指す二つの基本的国策をいかに両立させるか、中国政府が問われている課題に方向性を示す。
『現代中国叢書』の刊行にあたって
序文
第1章 国家の情報化政策と情報化戦略
第1節 情報スーパーハイウェー構想
第2節 情報インフラの整備
第3節 コンピュータ関連産業の急成長
第4節 情報化初期の「三金」プロジェクト
第2章 情報化のインパクト
第1節 情報文化空間の画期的な変化
第2節 マルチメディアとマスカルチャー
第3節 情報化が市民生活を変えた
第3章 IT革命と中国人の情報消費行動
第1節 急成長を続ける情報産業
第2節 情報市場に依存している人々
第3節 消費革命と巨大な広告市場
第4章 法的制度の不備と法的意識の希薄
第1節 法的制度の整備とそのネック
第2節 日常茶飯の不祥事
第5章 伝統的情報産業の地殻変動
第1節 挑戦に直面せざるを得ない伝統的メディア
第2節 マス・メディアの産業化
第3節 大衆文化のニーズに応えるマス・メディア
第4節 伝統的メディアとニュー・メディアの両立
第6章 ネットからの新たな挑戦
第1節 国家の政治基盤を揺るがすインターネット
第2節 言論自由の「特区」――BBS論壇
序 文
現在の中国は、ドラスティックな変化を続けています。その変化のスピードは、いち早く高度経済成長を為し遂げその後成熟期に入っているこの日本社会では、想像もつかないほど激しいものであると言えるでしょう。特に中国国内でのホームページの開設件数やインターネットの利用者数は、今や日本を抜いて、アメリカにも負けない大きな規模になりました。IT産業の発展という面から言えば、「一年行かないとわからなくなる国」・「浦島太郎になりかねない国」と言っても過言ではありません。
今では「世界の経済成長センター」といわれる中国は、決して、先進諸国ほど高度な情報化環境の形成段階に至っているとは言えませんが、情報化の整備へ向かって、その発展の速さ及び変化の激しさでは、それら先進の国々には勝るとも劣っていないと指摘しなければなりません。1990年代に入ってから、中国には、様々な情報伝送、情報収集、情報処理、情報蓄積を行うニュー・メディアが、国民の日常生活に浸透し始めています。
他方、激しい情報化のプロセスにともなって、この10数年間、中国マス・メディアも大きな変化を遂げてきました。周知の通り、中国のマス・メディアは、かつてよる機会が確実に増え、多種多様なニュースチャンネルを通して、自国のものだけではなく、世界のいろいろな情報をキャッチすることができるようになった。さらにIT産業の発展及び情報化プロジェクトの推進は大きな威力を発揮し、情報送受信、情報処理、情報蓄積の相互融合を進めることによって、中国の情報環境にかつてない大きな変容をもたらしています。こうした事例は、10年余り前の中国の一般市民には考えられなかったことでしょう。こうした新しい変動が社会生活に浸透することにともない、人々の情報利用のパターンは大きな影響を受け、自分の意思で選択できる主体的・能動的な行動範囲が広がり、一言で言えば、情報文化空間に画期的な変化がもたらされています。
中国における情報化のプロセスを目にして、現地に訪ねてきた日本人は、その発展ぶりに、「これが本当に中国か、日本との差がほとんどみられないじゃないか」と感動している光景に数多く出会います。それは一様に、目まぐるしく発展を遂げている中国情報化の現況に対して、日本の新聞や雑誌及び古い教科書だけを読んでいては、「十分知ることができない、分からない部分がまだ多い」というものでした。宮崎公立大学の王智新先