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ミクロネシアを知るための58章

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  • サイズ B6判/ページ数 275p/高さ 19cm
  • 商品コード 9784750322223
  • NDC分類 302.74
  • Cコード C0336

出版社内容情報

歴史的にも距離のうえでも日本に近く、関わりの深いミクロネシアについて、地理と自然環境、歴史、生活文化、現代社会、日本とミクロネシアというテーマのもとに取り上げ、紹介する。観光書では知ることのできないミクロネシアの側面を知るための総合書。

はじめに
1 地理と自然環境
 第1章 ミクロネシアの島じま――太平洋に浮かぶ「小さな島」
 第2章 火山島とサンゴ島――どのようにして島はできたのか
 第3章 海流と貿易風――自然を読みとる独自の知識
 第4章 雨期と乾期・自然災害――島に生きるための知恵と手段
 第5章 ミクロネシアの動物――人と動物との深い関わり
 第6章 ミクロネシアの植物――環境が生んだ栽培植物の多様性
2 歴 史
 第7章 ミクロネシアの人びと――人はどこから無人島にやって来たのか
 第8章 ミクロネシアの言語――変化を続ける島じまの言葉
 第9章 ミクロネシアのポリネシア人――ヌクオロ島とカピンガマランギ島の住人たち
 第10章 土器を作った島、作らなかった島――土器作りに見る歴史の一端
 第11章 巨石遺跡――ラッテ、ナン・マドール、レルほか
 第12章 オセアニア唯一の稲作地域――コメを作っていたマリアナ諸島
 第13章 ヨーロッパ人との遭遇――「発見」されたミクロネシア
 第14章 スペインからドイツ統治時代へ――ヨーロッパ諸国による統治の歴史
 第15章 日本統治時代――日本の手に渡った植民地
 第16章 太平洋戦争(第二次世界大戦)――戦地となったミクロネシア
 第17章 アメリカによる戦後統治――負わされ続ける軍事的役割
 第18章 キリスト教の功と罪――植民地支配がもたらした意識の変容
3 生活文化
 第19章 人の一生、男と女――ミクロネシアにおける男性像・女性像
 第20章 階層社会と平等社会――ミクロネシアの伝統的政治構造
 第21章 母系社会と父系社会――集団編成の基盤となるもの
 第22章 ミクロネシアの神とコスモロジー――廃止されたタブーと儀礼
 第23章 海洋資源の利用と保護――規制と管理による採集・捕獲
 第24章 多様な漁労法――時期・場所に応じた組み合わせ
 第25章 カヌーと航海術――海を渡るための知識と技術
 第26章 星のコンパス、貝を使った海図――培われてきた航海法
 第27章 サウェイ交易ネットワーク――海を隔てた離島間のつながり
 第28章 マーシャルの環礁間大交易ネットワーク――卓越した航海術の証
 第29章 ユニークな栽培法――自然条件が生んだ技術・ピット栽培
 第30章 ユニークな保存食――発酵と乾燥(パンノキ・パンダナス)
 第31章 調理法のいろいろ――食材がもたらす優れた一品
 第32章 ビンロウ噛みとカヴァ――伝統的な嗜好品
 第33章 手工芸品――木彫工芸、装身具、織物、編み物
 第34章 衣文化――腰蓑(こしみの)、腰巻き、フンドシ
 第35章 入れ墨――人びとはなぜ入れ墨をしたか
 第36章 家・集会所・カヌーハウス――人びとが集まった公共施設
 第37章 世界最大の貨幣――石で作ったヤップのお金
 第38章 歌と踊り――伝統の創造と継承
4 現代社会
 第39章 独立国家への道――ミクロネシアの独立とは
 第40章 自立と経済――島嶼国が抱える困難な課題
 第41章 出稼ぎする人びと――押し寄せるグローバリゼーションの波
 第42章 変貌する家族・自殺する若者――伝統的な家族の崩壊
 第43章 女性と社会――パラオに見る女性社会の構図
 第44章 観光立国の光と影――「楽園」が抱える見えざる現状
 第45章 海面上昇と島嶼国家の危機――小規模国家ゆえの不条理な側面
 第46章 燐鉱石産業の終焉と国家の行方――かつて「最も豊かな国」といわれたナウル
 第47章 核実験とマーシャルの人びと――軍事戦略に巻き込まれた島民たち
5 日本とミクロネシア
 第48章 ミクロネシアへ漂着した日本人――漂流がもたらした影響
 第49章 日本統治時代の移民と産業――南洋の「楽園」に見た夢と現実
 第50章 南洋興発株式会社・南洋拓殖株式会社――南進政策を支えた二大企業
 第51章 日本統治時代の生活――古写真から見た文化の変容
 第52章 日本観光に来たミクロネシアの人びと――最高の名誉とされた参加者たち
 第53章 土方久功の愛したミクロネシア――南海に足跡を残した日本人
 第54章 中島敦とミクロネシア――小説家の目が捉えた植民地
 第55章 政府開発援助――アメリカのコンパクト・グラントと日本のODA
 第56章 青年海外協力隊の活動――島の発展に協力する日本のメンバーたち
 第57章 沖縄にやって来たチェチェメニ号――失われた伝統航海術の復興
 第58章 ミクロネシアの日系人――全体の約二割が日系人
主要参考文献

はじめに
 オセアニアという地域名はようやく日本でもよく使われるようになってきた。それでも「南太平洋」という言葉のほうが一瞬にしてイメージがわくようだ。この二つの言葉の狭間にあるのが、赤道より北に位置する「ミクロネシア」である。
 ミクロネシアにはグァム、サイパン、ヤップ、パラオなど、日本でもなじみの深い島が多い。特に、ヤップは石で作った大きな貨幣で知られ、ポーンペイもナン・マドールという巨大な石柱を積み上げた巨石遺跡で有名である。このほかにもパラオのロックアイランド周辺に生息する大量の熱帯魚は世界中からダイバーを惹きつけており、これほど豊富な魚種が見られるのは、オセアニアでも珍しい。
 その反面、広島・長崎に投下する原爆を積んだB29「エノラ・ゲイ」が飛び立ったのはテニアン島だし、アメリカが原水爆実験を行ったビキニ環礁はマーシャル諸島にある。多くの島にはいまだに日本軍の残した残骸が雨ざらしになっており、ミクロネシアの島じまが否応なしに戦争に巻き込まれた過去を持つことを物語っている。
 このような歴史と自然の美しさ、そして島に残る力強い先史文化がないまぜになって残っているのがミクロネシアである。
 ミクロネシアの人びとは勇敢な航海者たちであった。これは、ミクロネシアの島じまの大半が小さな環礁島であることと関係する。環礁島は美しい海岸や海洋資源に富んでいるが、陸上の資源には乏しい。そのような環境で生活を続けるためには、近隣の島じまからの援助が不可欠で、自ずとカヌーによる航海術が発達した。その航海知識は膨大で、近年に至るまで脈々と受け継がれてきた。すでに航海知識が忘れ去られていたハワイで伝統カヌー「ホクレア」が復活された際、それを最初にタヒチに導いたのは、ミクロネシアの航海士だった。
 また、マリアナ諸島のラッテストーンやポーンペイのナン・マドールなどの巨石遺跡は、ポリネシアやメラネシアには見られない独特のものである。その巨大な建造物をどのようにして作り上げたのか、いまだによくわかっていない。しかし、一本が数十トンもあるような巨大な石柱を運んだり積み上げたりするには多くの人力を結集することが必要で、その背後には統率のとれた社会組織が存在していたことは明らかである。
 他方、ミクロネシアと日本の関係はほかのオセアニア地域に比べて格段に深い。一九一四年から三〇年間にもわたってミクロネシアは日本の海外領土(国際連盟委任統治領)となり、日本から大量の移民が海を越えて渡り住んだ。さまざまな殖産興業が試されるかたわら、ミクロネシアの子どもたちへの教育も行われ、日本語が徹底して教えられた。今でもお年寄りが流ちょうな日本語を操り、今の若者も知らないような日本の歌を口ずさむのを聞くと、いかに当時の教育が厳しいものだったのか想像がつく。その後、戦争へと進んだ世界情勢は、否応なしにミクロネシアの島じまをも巻き込んだ。戦後世代にとってもその悲惨さが伝わってくる戦争の痕跡が、海にも陸にも残っている。こんなに遠くて小さなサンゴ島に! と驚くような島にも日本軍の小さな戦車が今でも置き去りにされている。
 このように先史文化一つとってもそうであるが、民族文化や日本との関わりなど、多様な視点で見るミクロネシアは、なかなかに魅力あふれる地域である。それにもかかわらず、ミクロネシア地域全体を正面から取り上げた本は、観光書以外には少なかった。ぜひ、総合的な一冊の本を作りたいと長らく考えてきたが、今回それが実現した。ミクロネシア地域の自然や歴史、伝統文化や現代文化、そしてミクロネシアと日本との関わりの歴史などを五八の章に分け、それぞれに適した方に執筆していただくことができた。どのトピックもミクロネシアを知る手がかりとなる基本情報をベースにしているので、どこからでもおもしろく読んでいただけることと思う。
 歴史的にも距離的にも日本に近いミクロネシアについて興味を持っていただくことができたら、本書の目的は半分達成される。そしてあとの半分は、ぜひミクロネシアへと足を運んでいただければと思う。人間がいかに自然環境と密接に関わりながら生活をしてきたのか、島で生活をすることで理解がぐんと深まる。それがミクロネシアのおもしろさにさらに近づくステップとなるだろう。

二〇〇五年一一月
印東 道子

内容説明

先史文化一つとってもそうであるが、民族文化や日本との関わりなど、多様な視点で見るミクロネシアは、なかなかに魅力あふれる地域である。それにもかかわらず、ミクロネシア地域全体を正面から取り上げた本は、観光書以外には少なかった。ぜひ、総合的な一冊の本を作りたいと長らく考えてきたが、今回それが実現した。ミクロネシア地域の自然や歴史、伝統文化や現代文化、そしてミクロネシアと日本との関わりの歴史などを五八の章に分け、それぞれに適した方に執筆していただいた。

目次

1 地理と自然環境(ミクロネシアの島じま―太平洋に浮かぶ「小さな島」;火山島とサンゴ島―どのようにして島はできたのか ほか)
2 歴史(ミクロネシアの人びと―人はどこから無人島にやって来たのか;ミクロネシアの言語―変化を続ける島じまの言葉 ほか)
3 生活文化(人の一生、男と女―ミクロネシアにおける男性像・女性像;階層社会と平等社会―ミクロネシアの伝統的政治構造 ほか)
4 現代社会(独立国家への道―ミクロネシアの独立とは;自立と経済―島嶼国が抱える困難な課題 ほか)
5 日本とミクロネシア(ミクロネシアへ漂着した日本人―漂流がもたらした影響;日本統治時代の移民と産業―南洋の「楽園」に見た夢と現実 ほか)

著者等紹介

印東道子[イントウミチコ]
東京都生まれ。国立民族学博物館・民族社会研究部・教授。東京女子大学文理学部史学科助手を経てニュージーランド・オタゴ大学大学院人類学科修士・博士課程修了(Ph.D.)。北海道東海大学国際文化学部助教授・教授を経て2000年から現職。専攻はオセアニア考古学、民族学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

更紗蝦

24
図書館のリサイクル本コーナーに置いてあった本なので、やや古い本(2005年出版)です。(ちなみに、第2版が2015年に出版されています。)民俗文化と自然環境に関する内容がメインかと思いきや、かつての日本の統治に関連する記述が思ったよりも多くあり、冷戦時代から続いているアメリカによる軍事利用についてもきちんと触れられていました。1970~80年代は「世界で最も豊かな国」と形容されたナウルが、資産をずるずると食いつぶして経済破綻したという話には、日本の年金積立の損失を連想せずにはいられませんでした。2023/04/11

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