明石ライブラリー
21世紀後半の世界の言語はどうなるのか―情報化・国際化のなかの言語

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  • サイズ B6判/ページ数 260p/高さ 20cm
  • 商品コード 9784750321790
  • NDC分類 804
  • Cコード C0336

出版社内容情報

かつてないスピードで情報が世界中をかけめぐる一方で、かつてない早さで少数言語が失われていく現代世界の言語環境をめぐる共同討議から浮かび上がってくるものは…。


刊行にあたって
まえがき
●公開シンポジウム
「二一世紀後半の言語」――情報化・国際化の中で言語はどうなるのか
 第一部 二〇世紀末の世界の言語の現状
 第二部 二一世紀後半における世界の言語の予測と大学のはたす役割
 付属資料
「世界の言語」――その現状と未来
 付属資料
用語解説
あとがき
言語索引
用語索引

まえがき
 本書は、一九九八年一一月二日に山口大学において開催された公開シンポジウム『二一世紀後半の言語』に関する報告書である。前山口大学長廣中平祐氏の発案で、山口大学人文学部で『「二一世紀後半を読む」プロジェクト』がおこなわれたが、これはその中の一つの研究成果である。
 シンポジウム当時もまた今日も、言語学の緊急の課題として、危機に瀕した言語の記録・保存ということがある。現在、地球上では六〇〇〇を超える言語がはなされているといわれているが、二一世紀のおわりには、その九割が地球上から消滅すると予測する学者さえいる。二〇世紀はまさに、人類がかつて経験したことのないペースで急速に人口が増加し、少数の大言語が巨大化し、大多数の少数言語を周辺に追いやり、ついには消滅させようとしている。この状態があと一世紀つづいたならば、人類のかけがえのない遺産である言語の大半が、本当にこの地球上から永遠に消滅してしまうかもしれない。このことは、言語の研究にたずさわっている者にとって、容易に見すごすことはできない。取り返しのつかない事態が生じる前に、一〇〇年後を予測するという大胆なこころみをすることで、広く社会にむけてその問題提起行がつとめた。各パネリストのプロフィールについては、巻末の執筆者紹介をご覧いただきたい。シンポジウム当日は、若い大学生を中心に、三〇〇名以上の聴衆が会場いっぱいに埋めつくす中、当初の予定時間三時間を一時間以上超過したにもかかわらず、盛況のうちにおえることができた。著名なパネリストをお迎えできたことに加えて、テーマ自体にも一般の関心がきわめて高かったことが証明され、企画を担当した者として、本当に喜ばしいかぎりであった。

 シンポジウムは二部構成になっており、いくつかのトピック(以下「 」でくくる)ごとに議論を展開している。その内容を簡単に紹介する。
 第一部は『二〇世紀末の世界の言語の現状』である。まず「世界の言語の分布状況」について概観したのち、各国の「少数言語の現状」について、日本、中国、フランスの順に、公用語とのかかわりが、各国の個別事情にあわせて、具体的にわかりやすく説明されている。「情報化・国際化の中での大言語」では、インターネットに代表される情報化や、ボーダレス時代を象徴する経済の国際化の中で、フランス語や日本語といった大言語ですら、超巨大言語である英語にその存在をおびやかされるかもしれない替える可能性について、興味深い実例があげられている。
 第二部は『二一世紀後半における世界の言語の予測と大学のはたす役割』である。まず「言語による先史研究」では、未来を予測するための前提として、言語がいったいどのくらいの速度で変化するものなのかについて、また、言語系統論の方法およびその限界について、言及されている。「情報化・国際化時代の少数言語」では、二一世紀に言語学者は何ができるのかについて議論されている。少数言語の保存の意義についていえば、保存は話し手自身のためであり、その選択権はすべて話し手自身にある。しかし、完全な自由選択権があるわけではなく、社会的・経済的要因により、しかたなくみずからの母語をすてざるをえないのかもしれない。平等な社会的・経済的基盤を少数言語話者に与えることの必要性が説かれている。そのような条件が整ったときにはじめて、言語学者が集めた少数言語の記録・保存が活用される可能性も出てこよう。また、情報化社会の中で、少数言語のためにインターネットを活用する方法について言及され、その際、言語学者がはたす役割について提案されている。
 以上の議論をふまえて、シンポジウムの趣旨である「一〇〇年英語教育が過度に推し進められようとしている。ここでは大学での外国語教育のあり方について、あえて言語学の立場から問題提起したつもりである。
 なお「質疑応答」において、会場の三名の方から質問をいただいた。今回、その質問された方に原稿の校正を依頼できなかったため、出版に際してご迷惑のかからないように、お名前をあえて匿名にさせていただいたことをここにお断りする。

 本書には、シンポジウムの記録とは別に、いくつかの論文が収録されている。一つは、当日拠ん所ない事情で、やむをえずご欠席された松本克己氏に無理をおねがいして、後日「世界の言語――その現状と未来」というタイトルでご執筆いただいたものである。氏の言語類型地理論的ご研究をふまえた、巨視的な視点からのまことに興味ぶかい論考である。その内容は、「世界の言語の地域的分布」、「世界の言語の系統的分布」、「言語の系統とその時間的奥行き」、「言語と話者人口」、「言語と国家」、「危機に瀕した言語」、「世界言語権宣言(日本語訳)」という構成になっている。氏の一〇〇年後を見とおす洞察力と説得力のある明晰な文章は、一般読者にも強く訴えかけるであろう。また、「世界言語権宣言(日もしれない。

山口大学   乾 秀行

目次

公開シンポジウム 「二一世紀後半の言語」―情報化・国際化の中で言語はどうなるのか(二〇世紀末の世界の言語の現状;二一世紀後半における世界の言語の予測と大学のはたす役割)
「世界の言語」―その現状と未来