イスラームの世界観―ガザーリーとラーズィー

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  • サイズ A5判/ページ数 210,/高さ 22cm
  • 商品コード 9784750320670
  • NDC分類 167.1
  • Cコード C0014

出版社内容情報

民族・宗教紛争が絶えない国際状況と世界の平和的共存を考える上で不可欠なイスラーム理解。本書は、イスラーム神学が哲学と神秘主義を批判的に受容し、柔軟に変化していった歴史的過程を考察し、知られざるイスラーム思想の新たな側面を開示する労作。

はじめに
 第1節 本書の目的
 第2節 ラーズィーの研究史
 第3節 本書の構成
序章 イスラームの思想潮流
 第1節 イスラーム神学
  1 初期の神学論争
  2 ムゥタズィラ学派
 第2節 イスラーム哲学と神秘主義
  1 哲学
  2 神秘主義
 第3節 イスラーム思想史におけるラーズィーの位置
第1章 アシュアリーとアシュアリー学派
 第1節 アシュアリー
 第2節 クッラーブ派
 第3節 初期アシュアリー学派の思想家たち
第2章 ガザーリーとラーズィー
 第1節 ガザーリーの生涯、研究史、著作
 第2節 ラーズィーの生涯と著作
  1 生涯
  2 著作
第3章 神学から神秘主義への転換――ガザーリーの神名論
 第1節 文法家による名詞の定義
 第2節 ガザーリー以前のアシュアリー学派
  1 神の属性
  2 神の名前
 第3節 ガザーリー
  1 神の名前
  2 神との近接
第4章 ラーズィーの神秘思想――神名注釈書の分析
 第1節 称名、瞑想、祈願
 第2節 ラーズィーにおける神秘主義の影響
  1 「神の他にいかなる神もな解釈
 第1節 ミゥラージュ
  1 ミゥラージュのハディース
  2 ミゥラージュの解釈
 第2節 ファーティハ(クルアーン開扉章)と同二章二八六節
 第3節 霊魂上昇の過程
 第4節 礼拝の神秘主義的解釈
終章
 第1節 ラーズィーにおける神秘主義の受容
 第2節 ラーズィーの宇宙論
 第3節 イスラーム思想史におけるラーズィーの宇宙論の位置付け
あとがき
参考文献
索引

第1節 本書の目的
 本書は、イスラーム神学諸派の正統的な学派の中でもっとも主流派を形成するアシュアリー学派(al-Ash‘ari-yah)が隆盛を極めた十一世紀から十二世紀におけるイスラーム神学、哲学、神秘主義(スーフィズム)の思想潮流の統合に関する研究である。「文明間の衝突」ばかりが話題になりがちな昨今、古典イスラーム思想家のアブー・ハーミド・アル=ガザーリー(Abu Hamid Muhammad ibn Muhammad ibn Muhammad ibn Ahmad al-Tusi al-Ghazali=一〇五八―一一一一)、ファフルッディーン・アッ=ラーズィー(Fakhr al-Din Abu‘Abd Allah Muhammad ibn ‘Umar al-Razi=一一四九―一二〇九)(以下ファフルッディーン・ラーズィーとする)の知的営為は、異なる思想潮流間の対話、知的吸収の成功例として注目される。民族・宗教紛争の絶えない現代の国際状況を理解し、世界の平和的共存のあり方を考えるとき、十三億人以上もの信徒を持ち、世界中に広がっているイスラームについて、より深いレベルで理解することは不可欠である。そのためには、表面的な理解ではなく、イスラーム思想史の展開にまで踏み込んで、イスラームを知る必要がある。本書は、イスラーム神学が哲学と神秘主とって、自然を考察することは創造者についての知識を得るための手段であるとする。イスラームの宇宙論は、常に神に関係するものであり、宗教的な世界観であるということができる。
 ラーズィーも、この世界からその背後にある神秘的な世界を知ることができるとしている。ラーズィーによれば、心の中で神の名前を称えることは、人間が神の被造物の神秘について考えることである。そしてこの被造物の粒子(dharrah)のそれぞれが、不可視界に面した磨かれた鏡になり、人間が知性の目でそれを見ると、彼の目から霊的な光が出て、そこから崇高な世界(‘alam al-jalal)に至ると言う。このようにラーズィーは、イスラームの宇宙論の基本的な考えに沿っているといえる。
 ここでいう宇宙論は、個別的な自然現象を扱う天文学、自然学、地理学などではなく、現象界と霊的世界(不可視界、天使、中間世界)という二つの世界全体についての宗教的かつ包括的な議論、一種の存在論を意味する。二つの世界の全体的な宇宙論は、個別的宇宙論の前提であり、それを補完するものだと考えられる。伝統的な世界観では、世界は天と地に区別され、または現世と来世に区別される。この単純な世界観には、プラトンにに、宗教的に中立な分野である論理学を方法論として受け入れた。では、ラーズィーはイスラームの信仰に関わる分野においても哲学者の見解を受け入れたのだろうか。本書では宇宙論における哲学の影響として、哲学的な非物質的実体(純粋実体)が宇宙(世界)の構造に取り入れられているのか、という問題を検討する。なぜなら、哲学の非物質的実体は、神学の原子論とは相容れないものであり、この実体を認めるということは、哲学に大きく傾斜していることを示すことになるからである。さらに、ラーズィーの宇宙論が哲学のみならず、神秘主義と結びついていることを検証し、ガザーリーの宇宙論との相違点についても論じたい。

目次

序章 イスラームの思想潮流
第1章 アシュアリーとアシュアリー学派
第2章 ガザーリーとラーズィー
第3章 神学から神秘主義への転換―ガザーリーの神名論
第4章 ラーズィーの神秘思想―神名注釈書の分析
第5章 神学と哲学の世界観
第6章 ガザーリーの宇宙論
第7章 ラーズィーの宇宙論における哲学の受容
第8章 ラーズィーの宇宙論と神秘主義―ミゥラージュ解釈

著者等紹介

青柳かおる[アオヤギカオル]
東京外国語大学アラビア語学科卒業、東京大学大学院人文社会系研究科イスラム学博士課程修了。博士(文学)。日本学術振興会特別研究員。イスラーム思想史が専門
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。

感想・レビュー

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有沢翔治@文芸同人誌配布中

8
 八世紀から十二世紀頃までイスラムでは学問が花開く。コーランの解釈学であるイスラム神学、アリストテレスなどのギリシア哲学、独自の修行法を取り入れたイスラム神秘主義が統合されていくのである。この統合する過程を、アシュアリー派、ガザーリー、ラーズィーの三人を軸に分析していく。http://blog.livedoor.jp/shoji_arisawa/archives/51508970.html2019/11/23

可兒

0
再読に入る2014/07/07

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