出版社内容情報
南北朝から戦国時代にかけて、足利氏は実力を失いながらも将軍であり続けた。なぜ武士たちは足利氏を認めたのか。武家の王=足利氏とする序列意識「足利的秩序」がどのように成立し、維持され、崩壊していったのかに焦点をあて、吉良・斯波・新田氏ら一門の系譜から足利氏の存続と滅亡の謎に迫る。そして250年にわたる「足利時代」を再考する。
内容説明
群雄割拠する戦国時代も、足利氏は実力を失うが将軍であり続けた。なぜ武士たちは足利氏を認めたのか。武家の王=足利氏とする序列意識「足利的秩序」に焦点をあて、その存続と滅亡の謎に迫り、「足利時代」を再考する。
目次
なぜ、足利氏は続いたか―プロローグ
共通利益と共通価値
足利絶対観の形成
確立する足利的秩序
なぜ、足利氏は滅びたか
足利時代再考―エピローグ
著者等紹介
谷口雄太[タニグチユウタ]
1984年、兵庫県に生まれる。2015年、東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得満期退学。現在、東京大学大学院人文社会系研究科(文学部)研究員、博士(文学)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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パトラッシュ
112
無力ながら足利将軍家が戦国時代も存続し得た理由は「幕府に利用価値があったから」と考えられてきたが、本書は「足利家の血統による権威」という秩序観が武家に広く浸透していた事実を指摘する。力による政権は力で変えられるが、歴史と文化の裏付けのある権威は人を自発的に従わせる。その権威の源泉として源氏の血統は、田舎者の武士も従うしかない絶対的なものだったのだ。現代でも皇室への尊崇は、その伝統と血統に依る部分が大きい。足利氏が力を取り戻そうと変革を図って逆に権威を低下させたとの指摘は、体制存続の難しさを痛感させられる。2022/02/13
翠埜もぐら
21
西の将軍である足利氏と東の公方である足利氏が、ともに戦国の末期まで存続していながら、違う形態になっていった話は興味深かったです。まぁ公方さんのお話はちょこっとなのですが。実力を失いつつも残っていった要因が「利用価値」であることは認識済みでしたが、「権威としての価値」も大きな存在理由で、しかも足利氏自身がそれを高め、そして末期に改革として実力主義に舵を取ったことで、存在理由を自ら否定してしまったとは。織田や三好に振り回された情けない存在と言う印象が大きく変わりました。面白かった。この著者の次の本探そうっと。2023/04/30
MUNEKAZ
20
戦国期の足利氏存続の要因を、山田康弘氏による「共通利益」説ではなく、足利氏とその一門を武家の頂点とする意識が広く共有されていたという「共通価値」説に求めた一冊。政治学や社会学の理論を引用しながら、中世後期に存在した足利氏の「権威」を論証する内容はスリリングで面白い。松平家康が「徳川」に改名したのも、今川や吉良といった足利一門を超えるため、「足利一門の」新田氏に連なりたかったからというのは納得。また足利氏も徳川氏も血統から実力へという幕末の改革により、自己崩壊していったという指摘も興味深いところ。2021/06/13
nagoyan
17
優。としておくが、正直、隔靴掻痒の感。足利幕府が共通利益のみではなく、共通価値を担っていたため、室町、戦国期を通じて存続しえたという見立てに異論はない。そして、足利氏の貴種性が義満時代に確立したという指摘は、説得的である。要は、その内実があまり語れない。「武家の王」とはいかなる意味か。それは、当時の人々にどのように認識されていたのか。先行する北条得宗家の権威、南北朝の天皇家の権威の受容を経験してきた武士たちが、いかに足利の権威を認めるに至ったのか。その内在的な論理が説かれるかと期待したが。2021/05/31
アメヲトコ
16
21年6月刊。戦国期においてもなぜ足利将軍家は存続しえたのか。かつてそれを戦国大名たちの共通利益という側面から説明した山田康弘氏の説に対し、著者は「共通価値」という視角から足利家の貴種性を論じます。そしてその崩壊の理由を下剋上ではなくむしろ足利将軍家による「上からの改革」に求める指摘も興味深いところです。他分野との連携を重視し、日本中世史の本ながらアルチュセールとかバークとか出てくるところも面白い。2022/01/25