出版社内容情報
浄土教が浸透して地獄の観念が広まり、動物の生命をうばう殺生(せっしょう)が罪とされた中世。狩猟や漁業が全面的に禁止となり、そこにたずさわる人々が弾圧された。実際には肉や魚を食べる矛盾を抱えつつ、なぜそのような宗教的差別が行われたのか。殺戮(さつりく)をなりわいとする武士の苦悩にも触れ、中世の文化や宗教の特質を「殺生」というキーワードから考える。
内容説明
地獄の観念が広まった中世は、動物の生命をうばう殺生が罪とされ、狩猟や漁業にたずさわる人々が弾圧された。殺戮をなりわいとする武士の苦悩にも触れ、中世の文化や宗教の特質を「殺生」というキーワードから考える。
目次
生命について考える―プロローグ
古代国家と「殺生」
中世のはじまりと殺生罪業観
寺院・神社による「殺生禁断」
荘園と「殺生禁断」
殺生と武士の苦悩
政策と論理のはざまで―エピローグ
著者等紹介
苅米一志[カリコメヒトシ]
1968年、福島県に生まれる。1996年、筑波大学大学院歴史・人類学研究科単位取得退学。現在、就実大学人文科学部教授、博士(文学)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ぎじぇるも
3
もう少し真に迫ったものを期待していたが多少行政史というか、殺生を寺院や仏教から遠ざけるために社会的分業により行為を遠ざけたり、神道の専売にしたり等の運営上の方法などが詳しいかなと思う。しかし真に殺生をなくしたいと考えた為政者や僧侶の実例もあり良かった。2023/11/14
アメヲトコ
2
仏教の中世化にともなって成立する殺生罪業観。そうした社会の中で、「殺生」を生業とする狩猟者・漁撈者、あるいは武士たちはそれらとどう向き合ってきたのか。現実との折り合いを付けるための論理構築が非常に興味深いところですが、さて現代の我々はそうした切実さをどれくらい意識しているのでしょう。2016/07/29
田蛙澄
1
日本人の肉食史や殺生観にけっこう興味があってあれこれ読んでいるが、たいていが狩猟や獣食に力点が置かれるのに対して、漁撈や魚食における殺生の罪業観についてかなり詳しく記述しているのが印象的だった。 また現代人から見ると諏訪の勘文のような方便は、やっぱり昔の人も肉を食いたかったんだみたいな雑な感想で終わりがちだが、筆者はこのような殺生仏果観にむしろ殺生罪業観を前提とする葛藤や苦悩を読み取っている点が、その時代の価値観に迫る歴史の醍醐味を感じた。2023/03/21
maqiso
1
中世の仏教では殺生がタブーとされたが、神への贄や漁撈・狩猟をして生活する者や戦闘をする武士もいたため、単純な禁止や否定にはならなかった。浄めのための禁猟が領地の確定のために行われたり、神社と寺院の間で漁の取り決めがあったりと、戒律の守り方が柔軟なのが面白い。対象が広いせいか、少しまとまりがない。2019/09/01
やぎ
0
仏教に対する信仰が盛んだった頃、人々はどんなことを考えて生活していたのか。きっともっと多様な考え方があって、けれども、確かにこういう風に考えていた人たちは一定数いた。そんな本。まずその信仰の基盤を説明した上で、民衆、僧侶、武士と登場するのだけど、武士の部分は少し薄め。とても面白く読んだ。2016/03/17
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- 和書
- 酔茗詩抄 岩波文庫