内容説明
名前に権力者と同じ文字を使うことができなかった中世社会。将軍は、公家衆に名前の一部を授けたり擬制の親子関係を結ぶことで、朝廷との関係をいかに強化しようとしたのか。名前をめぐる権力と政治状況を解き明かす。
目次
名前をめぐる政治と権力―プロローグ
古代・中世前期の命名と権力(天皇・貴族の命名と権力;武家の命名と権力;清和源氏と足利氏)
将軍権力の確立―足利尊氏~義満期(将軍の実名敬避と公家衆・僧衆に対する偏諱授与;家門安堵と偏諱・猶子;将軍子弟の門跡寺院入室)
将軍権力の専制と動揺―足利義持~義尚期(偏諱授与の展開;将軍家と公家のはざま―将軍猶子の門跡寺院入室;将軍権力の動揺と朝廷・公家衆の動向)
将軍権力の分立と抗争―足利義材~義昭期(将軍偏諱に対する意識の変容;将軍権力と天皇権威の展開;将軍と天下人)
室町将軍の権力と権威―エピローグ
著者等紹介
水野智之[ミズノトモユキ]
1969年、愛知県に生まれる。1999年、名古屋大学大学院文学研究科博士後期課程史学専攻日本史専修単位取得退学。2001年、博士(歴史学・名古屋大学)。日本学術振興会特別研究員(PD)、高千穂大学商学部准教授を経て、現在、中部大学人文学部歴史地理学科准教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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邑尾端子
7
概説的な本だが、知らなかったことも多く非常に興味深く読めた。足利将軍から公家衆への偏諱授与は、公家を将軍の統制下におくための策の一つだったとされることなど、名前の一字を授けることが即ち権威関係を定着させることにつながるというのは面白い。また、源氏のなかで源姓を名乗ることを規制された家系と許された家系があったことなど、氏姓を名乗ることが権力と結びついているのもまた面白い。2015/04/23
Toska
5
足利将軍からの一字拝領というと武家関連ばかりがイメージされがちだが、朝廷との関係作りこそが室町幕府の勘所であったことを考えると、本書のように公家との偏諱のやり取りに注目するのは面白い観点。当初、義満は恐ろしく強引なやり方で摂関家に自らの偏諱を押し付けたのに対し、時代が下ると公家衆の方が先を争ってもらいに来るようになった。当時の家格観において、足利氏はかなりの「下剋上」を成し遂げていたことが分かる。2021/10/31
Teo
5
室町将軍が公家に偏諱を授けたり公家の子弟を猶子として門跡寺院に入室させたりと言った行為によって、室町将軍家の家格を上げ公家をコントロール下に置く方向にし向ける様子を明らかにして行く。なるほど偏諱の授与のあり方で室町将軍の勢力がどの様に推移したのかのみならず、その時代の公家達のつぶさな認識がよく反映されていると思う。ここまで生々しくお互いの関係がしかも年代を追って出て来る事象として面白い。2014/11/26
Kenji Suzuya
4
命名・偏諱授受・猶子関係形成といった手段を通じて、室町将軍がいかにして朝廷・公家を統制しようとしていたかが扱われる。名前における重複回避や授受などは、足利義満から義政までの幕府権勢が盛んな頃にはよく見られたが、幕府権威の低下とともに見られなくなっていったとする。偏諱授受については公家との関係のみならず、武家間の関係でも興味がある内容であるので、この点がかけていたのは勿体なかったともいえる。2015/11/18
アメヲトコ
4
室町将軍と公家衆の諱に着目して、そこから幕府と公家との関係を読み解こうとするもの。今まで迂闊にも気づかなかったけれど、日記で有名な三宝院満済も、足利義満の偏諱を受けた名前だったのね。2015/09/22