出版社内容情報
コロナ禍とともに医療体制の脆弱さが明らかになっている。医療の枠組みを決めている「医事法」が国からのトップダウンでは、国民の命も健康も、医療従事者の暮らしも守れない。医療崩壊は一時的ではなく、構造的な原因をもつのである。
地方病院の閉鎖。病床の削減。保険制度のアメリカ化。存続の危惧される介護制度。繰り返される薬害・医療事故。
社会では病気への差別がなくならない。生殖医療・臓器移植・終末期医療等を規制するガイドラインには曖昧さが残る。医学部教育では倫理や人権がほとんど教えられていない。世界とのギャップは大きい。
そもそも日本には医療のめざすべき指針を定めた「医療基本法」がない。すべての人が良質、安全そして適切な医療を受けられるように「患者の権利」を中核にした医療基本法の制定が望まれる。そして医療従事者が患者の権利を擁護しつつ、科学性と公正を実現するには、自治が必要だ。
医療に内在するリスクや対立に対処する基準となる「共通の尺度」を定めるのは法の役割だろう。いびつな医事法制を見直さなくては、医療改革はありえない。
医療に無縁の人はいない。刑法学者が医療の現実を分析し、今後への処方箋を提示する。
内容説明
医療基本法のない国で。トップダウンの医療では、命も健康も守れない。患者の権利中心の医療基本法と医療従事者の自治が必要だ。医療崩壊を分析し、医事法を作り直す道筋を考える。
目次
1 行政裁量に委ねられる日本の医療(医療と医事法;「公共財」の医療が崩壊する;医療従事者の資格・業務とブラック職場;インフォームド・コンセントと診療情報の提供;感染症と公衆衛生)
2 翻弄される医療弱者(精神科医療;生殖医療と命の選別;脳死と臓器移植;子どもと高齢者の医療)
3 患者と医療従事者の人権を守る医療へ(生と死の尊厳―行為規範としての法の役割;拘禁施設における医療;医学研究と戦略商品開発;医療事故と薬害の再発防止;疾病差別;患者の権利を中核とする医療基本法)
著者等紹介
内田博文[ウチダヒロフミ]
1946年大阪府生まれ。京都大学大学院法学研究科修士課程修了。九州大学名誉教授。専門は刑事法学(人権)、近代刑法史研究。ハンセン病市民学会共同代表。厚生労働省第三者機関「ハンセン病問題に関する検証会議」副座長(2002‐2005年)、同「ハンセン病問題検証会議の提言に基づく再発防止検討会」座長代理(2006‐2020年)、熊本県ハンセン病問題啓発推進委員会委員長(2015年から現在)。全国精神医療審査会連絡協議会理事(2017年から現在)などを務める。患者の権利擁護を中心とする医療基本法や、差別禁止の法制化の問題のほか、子どもの権利問題にも取り組んでいる(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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