百年文庫

  • ただいまウェブストアではご注文を受け付けておりません。
  • サイズ B40判/ページ数 153p/高さ 19cm
  • 商品コード 9784591121573
  • NDC分類 908.3
  • Cコード C0393

内容説明

父を見舞いに故郷へ戻ると、草木は芽吹き、鳥は鳴く春の盛り。北国の遅い春の輝きと迫りくる死のコントラストに眩暈を覚える、伊藤整の『生物祭』。「彼女も俺も、もうどちらもお互に与えるものは与えてしまった」―海辺の病院で妻の看病に身を捧げる夫。疲弊した二人の間に差し込んだ微かな光(横光利一『春は馬車に乗って』)。「僕」は、新聞記事で十年前に滞在した運河の町が火事で焼失したと知る。下宿先の旧家のこと、美しい姉妹のこと…あの夏の記憶が動き出す(福永武彦『廃市』)。時の流れの中に浮かぶ生命を描いた三篇。

著者等紹介

伊藤整[イトウセイ]
1905‐1969。北海道生まれ。ジョイスの影響を受けた『新心理主義文学』を発表。ロレンスの『チャタレイ夫人の恋人』完訳が猥褻文書と論争になるが、文学としての正当性を主張した

横光利一[ヨコミツリイチ]
1898‐1947。福島県生まれ。菊池寛に師事し、『蝿』『頭ならびに腹』など新進的な表現手法で頭角を現し、川端康成らとともに新感覚派と呼ばれた

福永武彦[フクナガタケヒコ]
1918‐1979。福岡県生まれ。戦後、詩集『ある青春』、評論『ボオドレエルの世界』、小説『風土』などで注目を集め、『草の花』で文壇での地位を確立(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

モモ

46
伊藤整『生物祭』父が病気で亡くなりそうなとき、北国の春が始まった。春の真盛りのなか、父は死に近づく。描写が綺麗。横光利一『春は馬車に乗って』死にゆく愛する妻の世話を続ける夫。元気な時より病気の時の方が妻を近くに感じている様子に少し複雑な思いがする。福永武彦『廃市』かつて滞在した運河の町が火事で焼失したと知り、思い出す旧家の姉妹とその悲劇。姉妹は、お互いに気を使ったがために、悲劇がしのびよる様子が何とも言えない。もっと話し合えば良かったのに。どの作品も好みの描写。ひんやりとした水を感じる一冊でした。2022/10/15

桜もち

44
「こうしていつまでも暮せるものでないことは二人とも知っています。しかしそれでどうして悪いんです?」一緒にいるのも地獄、別れるのもまた別の地獄、ということがある。そういう人の言葉だと思った。滅びるまでの時間をただただ使い果たしていくだけの、水路が縦横にはしる古い町。なんだかこの世のものとは思われなかった。自分も、自分の愛する者も、愛していない者も、結局は時の流れの中に全て流れ去ってしまう。流れ去る寸前の、やけにスロモーで克明な一瞬を切り取った小品たちであった。『生物祭』、『春は馬車に乗って』、『廃市』。2020/11/07

神太郎

33
前作の白にも通じる命を扱う作品が多い気がした。伊藤整の「生物祭」は死に向かいつつある父と自然の美しさの対比が何とも言えぬ味わいがある。横光利一の「春は馬車に乗って」は結核になった妻とのやり取りが何ともリアルで話に引き込まれてしまった。ラストはあの瞬間に妻がなくなったのか単に瞳を閉じただけなのか。想像させるラストだ。「廃市」は最初は主人公と民子の恋愛話かなと思いきやひと波乱あり、この展開は読めなかったな。葬式の場のやり取り凄まじい。ボタンのかけ違えというかなんというかその筆致にやられました。三篇とも良作。2020/04/15

臨床心理士 いるかくん

27
3篇から成る短編のアンソロジー。タイトルは「水」だが、テーマは3篇とも『死』である。どれも優れた作品だが、私の好みは福永武彦の「廃市」。5人の人間関係が鮮やかに描き出される終盤の展開はさながらミステリーを読んでいるかのような滋味に溢れている。2014/02/15

マッキー

22
どの作品も「死」の影を落としている。福永武彦の「廃市」を読んでいるとき、自分が以前夢で見た光景と重なり、デジャブのような感覚に浸ることができた。独特の空気感と細部を読者の想像にゆだねる情景描写が良い。2017/05/19

外部のウェブサイトに移動します

よろしければ下記URLをクリックしてください。

https://bookmeter.com/books/2968448
  • ご注意事項